Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

ブルース・ミラー駐日オーストラリア大使 東京ロータリークラブ例会におけるスピーチ - 「日豪の絆 新たな可能性への架け橋」

2012年03月7日
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紹介有難うございます。弦間会長、ならびにご列席のロータリアンの皆様、本日はお招き頂き有難うございます。東京ロータリークラブの例会に参加する機会を賜り、大変嬉しく思います。

まずはじめに、甚大な被害と大きな悲しみをもたらした東日本大震災から、一年という節目を間もなく迎えるにあたり、改めまして日本の皆様に心よりお見舞い申し上げます。オーストラリア政府及び国民を代表して、これからもわが国は真の友人として、震災からの復興に取り組む日本を引き続き支援していくことを、この場をお借りしてお約束致します。

 

日豪関係の礎—人的交流の重要性

私は、国際交流基金の招きにより交換留学生として日本を訪れて以来、縁あって彼是35年以上日本と関わり続けています。日本は私にとってまさに第二の故郷と言えます。日豪関係の行方は単なる職業上の関心にとどまるものではなく、個人的な深い思い入れもあります。そして現在の私は、日本においてオーストラリアを代表する立場にあり、この幸せを日々感じています。

今日はまずはじめに、日豪関係の礎を成す、人的交流の重要性についてお話したいと思います。日本とオーストラリアは、長年にわたり、貿易・投資から安全保障、防衛面での協力に至るまで、幅広い分野で密接な関係を構築してきました。しかし、長年にわたって地道に築き上げられた信頼関係がなくては、経済や安全保障などの分野における両国の緊密な協力は成り立ちません。二国間関係を支える重要な基盤を成すのは、草の根レベルでの国民同士の繋がりであり、人的交流を通じて培った強い絆です。私は、深い信頼関係に立脚する強固な絆が根底にあるからこそ、今日日豪は真の友人として、広範な分野にわたって緊密な関係を享受できているのだと、強く信じています。

 

ロータリークラブと国際交流

国際的な人的交流を促進し、国際舞台で活躍する次世代のリーダーたちを育成する上で、「ロータリー財団国際親善奨学金プログラム」や「米山記念奨学金プログラム」など、ロータリークラブが手がける奨学事業・活動は、非常に優れた取り組みだと思います。「ロータリー財団国際親善奨学金プログラム」は、民間団体が提供する海外留学奨学金としては世界最大規模を誇り、1947年以来、世界中のロータリアンの皆様が約100カ国の40,000人を超える留学生を支援してこられたと承知しています。

ロータリアンの皆様には、今後も引き続き、世界各国間の相互理解と親善を促進し、未来のリーダーへの投資として、将来性のある若者たちをご支援頂きますよう、この場をお借りしてお願い申し上げます。

日本における活動規模には及びませんが、オーストラリア国内でも、総勢34,000人に上るロータリアンが1,164のクラブを拠点として日々様々な活動に従事しています。また、わが国のクイーンズランド大学にはロータリー平和センターがあり、世界中から集まった平和フェローが修士課程にて平和と紛争解決について学んでいます。世界に6か所あるロータリー平和センターのうち、アジア太平洋地域に設けられた2か所がわが国のクイーンズランド大学と日本の国際基督教大学にあるという事実は、国際舞台における両国のロータリークラブの存在感の大きさを物語っていると言っても過言ではありません。

今後も、ロータリークラブをはじめとする両国の慈善団体による奉仕活動や、日本全国の日豪協会及びオーストラリアの豪日協会の取り組みを通じて、国民間の絆がさらに一段と深まり、日豪関係がより一層強化されますよう願っております。

 

教育交流

草の根レベルでの交流を促進する上で、言語教育をはじめとする教育交流もまた重要な役割を果たしています。1970年代において、私のように日本語を学んでいたオーストラリア人は非常にまれでした。しかし今では小学校から大学まで日本語がくまなく教えられ、わが国の教育体系では、今でも日本語が最も広範に学ばれている外国語となっています。

わが国政府は昨年、人的交流を促進する取り組みの一環として、日本人学生のオーストラリア留学を対象とした奨学金制度や、両国の教育機関同士の交流を促すプログラムを発表しました。さらに、わが国は、日本政府の優れたJETプログラムに似た形式で、日本の若い方々を日本語教師としてオーストラリアに招聘するプログラムの実現可能性についても検討を重ねています。

 

オーストラリア経済の成功要因

次に、経済・貿易面に目を向けて、資源ブームの恩恵を受けて着実な発展を遂げるオーストラリア経済と、その繁栄の背景にある成功要因についてお話します。ご存知の方も多いかと思いますが、2008年の世界金融危機の影響で米国をはじめ世界各国の経済が失速する中で、オーストラリアは、危機の影響を比較的軽微に抑えて不況の波を乗り切った、数少ない国のひとつでした。オーストラリアが高い経済成長を維持している理由として、豊富な天然資源がよく挙げられますが、わが国の経済的繁栄を支える要因は決してそれだけではありません。

1980年代、オーストラリア政府は国際的競争力の強化を目指して、変動為替相場制の導入、金融市場の自由化、関税引き下げ等、一連の改革を行いました。現在日本で経済改革が議論されているように、これらの決断については当時オーストラリア国内で白熱の議論が交わされ、安価な輸入品の流入によって、オーストラリア経済が壊滅すると危ぶむ声も多くありました。

しかし、改革がもたらした結果は全く逆でした。安価な外国製品の輸入により国内産業は変革を余儀なくされましたが、多くの企業は迅速にそのような変化にも適応しました。当時、生産部門での改革は、オーストラリア経済に新たな息吹を吹き込み、産業の活性化に貢献したのです。

その後も過去30年の間、わが国政府は、より開放された市場がさらに多くの貿易を導き、ひいては相互利益につながるとの見解に基づき、数多くの貿易自由化政策を実行してきました。

そのような政策を通じて強化された国内産業の競争力や安定した産業基盤に加え、与えられた資源を効率よく利用する技術や専門知識もわが国経済の成功要因と言えるでしょう。技術開発に積極的に取り組み、蓄積したノウハウがあるからこそ、石炭やLNGなどのエネルギー資源を有効に活用し、着実な経済成長を実現できるのです。その他にも、21世紀の世界経済を牽引するアジア地域に近いという地理的な利便性、移民受け入れによる人口の増加など、数々の好条件が整って、オーストラリア経済は現在の繁栄を手にしています。

 

世界、地域と日豪関係の行方

今日、世界全体を見ても、日本とオーストラリアほど強い補完性のある二カ国の存在は、めずらしいと言えます。両国は民主主義や法の支配、自由主義経済の価値観を共有しており、忠実に契約を守るパートナーとして互いを信頼しています。これは日本とオーストラリアがこうした価値観を正しいと信じているだけでなく、これらが私たちの社会を強固にしてくれるのを知っているからです。

目下、グローバル社会は様々な不安定要素を抱えています。2008年の世界金融危機は深い爪痕を残し、世界経済には未だに暗雲が立ち込めています。欧米における経済成長の停滞、失業率の高止まり、市場の不安定性、持続不可能な国家債務など、多くの問題が山積しています。

より大局的に見ると、経済不安に端を発するこのような問題は、世界、特にアジア地域でのパワーバランスが変化し、地域情勢が新たな局面を迎える中で起こっています。中国やインド、その他アジアの新興経済国の台頭は、21世紀が「アジアの世紀」であるという見解の正しさを立証しつつあります。世界のこのような変化は、極めて大きな前向きの可能性を提示すると同時に、多数の問題も孕んでいます。

私は、このような状況の下、日豪の協力は、世界の構図の中でかつてなく大きな役割を果たしていると考えています。そして、両国がより一層緊密に協力することにより、日豪のみならず、アジア太平洋地域、ひいては世界全体に利益をもたらすことができると信じています。

現在、日本は、未だ東日本大震災とこれに続く原子力発電所事故からの復興の途にあります。この復興作業は、数十年という長い年月を要する膨大な仕事ですが、昨年4月に東京と東北の被災地を訪れたジュリア・ギラード首相からもお伝えしたように、日本の復興に向けて、わが国は可能な限りの支援を提供致します。

オーストラリアは昨年3月の震災発生時に、アメリカ以外で日本へ空輸支援を提供した唯一の国です。わが国のC-17輸送機一機が、日本国中で米軍及び自衛隊と共に、震災直後の2週間で、延べ500トン以上の救援物資と機材、および人員の輸送任務にあたりました。また福島第一原発の冷却に必要なポンプを日本に運び込むにあたって、わが国はこの装置の空輸のために、別のC-17二機を追加配備しました。

未だ多くの課題が残っているとはいえ、私は日本、及び日豪関係の将来は明るいと信じています。自信にあふれた日本が外の世界に目を向け、地域の問題で十分な役割を果たすことが、わが国の国益にも大きく影響します。私は、日本は必ず東日本大震災からの復興を成し遂げ、より強くなって立ち上がることができると確信しています。

 

貿易・投資関係

両国の関係を見ていく上で、次に目を向けたいのが膨大な額に上る貿易・投資関係です。貿易はウィン・ウィンの関係をもたらす活動であるということを示す最適な例のひとつです。

ご存知のように、日本のエネルギー自給率はこのところわずか4パーセント程度で推移しています。しかし、日本は過去50年の間にめざましい繁栄を成し遂げました。高度経済成長に象徴される日本の成功は、決して他国に対して門戸を閉ざし、保護政策を実施することで成し得たわけではありません。むしろその逆で、過去50年間、日本は自給の定義を拡大解釈し、友人であり信用できるパートナーであるオーストラリアとの関係や、日本企業によるオーストラリアへの投資をも「自給」の一部と捉え、信頼に足る資源供給元を確保してきたと言えます。

わが国は長年にわたり、石炭や天然ガス、ウランをはじめとしたエネルギーを日本に安定的に供給し続けてきました。さらに、今後数年は新しい天然ガス田の操業が開始される一方、他の供給源の後退が見込まれるため、わが国による日本へのエネルギー供給は、より重要性を増すと考えられます。

将来に目を向けますと、レアアースなど両国共通の利益となる新分野がすでに生まれています。オーストラリア企業のライナス・コーポレーションは、近々、レアアースの生産を開始します。国際協力銀行の支援を得て、わが国のライナス・コーポレーションが双日と戦略的提携を結び、レアアース製品の日本市場への追加供給の確保へと動いた点を嬉しく思います。

日豪間の貿易・投資関係はあくまで双方向の関係であり、ウィン・ウィンの方程式です。オーストラリアが現在の繁栄を謳歌できるのは、日本をはじめ、信頼できるパートナーとの良好な関係があってこそです。わが国を代表する産業の多くは、日本からの需要のみならず、日本からの投資、日本企業とのパートナーシップにより発展してきました。

近年、日豪間の貿易・投資は資源・エネルギーや食料の安定確保を目的とするだけでなく、さらに多くの分野へと広がっています。金融サービス、医薬品、生命科学など、オーストラリアには今後さらに成長が期待できる産業が他にも多くあります。実際に、近年の日本企業からわが国への投資は幅広い産業部門にわたり、具体例を挙げれば、積水ハウス、住友林業、日本製紙、ソニー銀行など、枚挙に暇がありません。また、多くの日本企業がオーストラリアに現地法人を設立して活動しており、東京ロータリークラブとも縁のある、資生堂、キッコーマン、ミズノなどの日系企業は、オーストラリアの消費者にとっても大変身近な存在になっています。

グローバル化が進む昨今、二国間の関係が密接であるほど、相手国の新規市場への投資リスクは低くなるという傾向が顕著に見られます。密接な関係は、地理的な近さだけでなく、相互補完的なビジネス関係や、経済、文化、社会のネットワークを通じて構築されます。そして、現状に甘んじることなく、既存のネットワークをさらに広げ、深める努力により、確立した関係に基づいて新たなビジネスチャンスを掴むことが可能になります。

 

日豪経済連携協定(EPA/FTA)

私は、こうした関係の育成とより一層の発展を図るために、最大限努力することを大使としての重要任務と捉えております。そのためにも、すでに5年も交渉を続けている日豪経済連携協定を締結すべく、迅速に行動することが肝要です。わが国は、日本政府が2010年の暮れに発表された、「包括的経済連携に関する基本方針」の内容に大変勇気づけられました。日本とオーストラリア双方の可能性の枠を広げるために、この協定は絶対に欠かせないものです。農業分野は、交渉に際して、両国の間に横たわる主要な問題のひとつです。私は、日本とわが国の農業貿易をめぐる議論が、従来の硬直した立場の繰り返しから、将来への前向きな協議へと変わるよう強く望んでおります。

日豪経済連携協定、いわゆるEPAは、日本の食料安全保障を強化します。日豪EPAは、わが国の農業及び食品加工施設に対する日本企業の投資を促し、こうした日本企業は国内の高い水準に見合った健康的で安全な食品を逆輸入することで、より多くの利益を上げられるようになるでしょう。日本の企業や政府、また消費者にとっても、コストの低減につながります。さらに、改革が実行に移されれば、日本の農業の強化にもつながります。

 

環太平洋経済連携協定(TPP)

また、わが国は、環太平洋経済連携協定、いわゆるTPPの交渉参加国でもあります。昨年11月に野田首相が表明された、TPPの交渉参加に向けて関係国と協議に入るとの日本の方針を、オーストラリアは歓迎しています。特に、日本経済にも大きな打撃をもたらした東日本大震災から間もない時期に、日本がこのような決断をされ、私たちは希望の光を見る思いが致しました。

TPPは、貿易・投資などの自由化を通じて経済統合を図る、21世紀の協定であり、長期的にはアジア太平洋地域全体を包括する自由貿易圏、FTAAPの実現を視野に入れています。TPPはまた、従来の経済連携協定の枠を超えて、貿易・投資に関する非関税障壁も対象としています。日本がTPPに参加すれば、欧州連合より約40パーセント大きな規模の地域市場が創出され、日本及び関係国は成長面で多大な利益を享受できます。

TPPは野心的なイニシアティブであり、高い水準の貿易自由化を目指しています。日豪両政府は先月、日本のTPP交渉参加に向けた事前協議を初めて実施し、両国は今後も話し合いを続けていくことで合意しました。わが国は、包括的で質の高い協定を目指し、日豪EPA交渉を大幅に進展させることにより、日本は関係国に対して、TPP交渉参加に向けた意欲と強いコミットメントを伝えることができると考えています。しかし勿論、TPPに参加すべきか否かの最終的な判断は日本が下すべきであり、私たちは、日本が自国の国益にとって最良の決断をされるよう、引き続き見守っていく所存です。

 

終わりに

日本とオーストラリアは、皆様のような方々のご指導やご支援によって、今日までの数十年間にわたる永続的なパートナーシップを構築することができました。両国が、これから日豪EPA協定の進展や貿易・投資の活性化、人的交流促進のため、次のステップを踏み出すにあたり、皆様からも引き続きのご支援を賜れば幸いです。こうした取り組みこそが、将来における日豪、さらにはより広い地域の安全と繁栄を支えていくことでしょう。

ご清聴有難うございました。