Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

ブルース・ミラー駐日オーストラリア大使 日本外国特派員協会「大使との夕べ」講演

2012年06月27日
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今夜は御招待を頂き、誠に有難うございます。日本外国特派員協会会員の皆様とお会いでき、大変喜んでおります。

(御質問があれば、喜んでお受けしますが)まずはじめに、今夜は現在の日豪関係の概要について簡単に御説明します。その中で、特に両国の経済関係と変わり行く安全保障・防衛関係に焦点を当てていきたいと思います。

しかしその前に、わが国にとり日本との関係は、アジアへの関与の根幹を成すものである点をお伝えしたいと思います。

50年以上にわたり、民主主義や法の支配、経済の強い相互補完性に裏打ちされた自由市場主義に取り組むことで、両国の関係は地域において最も緊密なものになりました。

地理や人口のほぼあらゆる側面において、両国は異なるにも関わらずです。

わが国の面積は日本の20倍もありますが、人口は日本の5分の1以下に過ぎません。

御承知のように、オーストラリアにはエネルギーや天然資源が豊富にあります。日本にはこうした資源は殆ど存在しませんが、一方でこれらを大量に消費しています。

また両国は異なる半球に位置し、季節が反対であるため、日豪間では観光や季節の違いを利用した食品の輸出が盛んです。

現在のアジアの台頭は、実際には1950年代における日本の勃興を機に始まりました。

当時から今世紀にかけて、日本は地域における成長の推進役を果たしてきました。

これにはわが国も関わっています。日本の投資は資源や農業分野から、サービス・製造業に至るまで、わが国における多くの主要産業の発展に欠かせないものでした。

経済の規模という点だけで見れば、中国が今世紀日本を上回りましたが、日本は引き続き、地域において群を抜いて最大の豊かな先進国であり続けています。

日豪関係はおそらくは、経済的側面から世界に最も知られていますが、この経済関係の規模はしばしば人々を驚かせる程です。

2009年に中国が取って代わるまで、日本は30年間にわたってわが国の最大輸出市場でした。

このため日本やオーストラリアにいる評論家の間で、わが国における現在の日本の相対的な重要性を疑問視する声が上がっています。

これに対する回答として申し上げたいのは、日本はわが国の輸出にとり、引き続き巨大で、高度化された、信頼の置ける市場である点です。

わが国の対日貿易黒字は実際、全ての国を上回るものです。昨年の黒字額は、323億豪ドルに達しました。

現在の為替レートを御存じない方もいるかと思いますが、現在豪ドルは1.005米ドル、約79.8円で取引されています。

余談ですが、わが国は著しい交易条件の変化を経験しており、これに伴い経済は大きな変化を遂げています。

日豪関係に話を戻しますと、わが国の対日輸出は引き続き伸びています。2001年に240億豪ドルであった輸出額は昨年500億豪ドルとなり、この十年で倍増しています。

323億豪ドルの貿易黒字という数字の意味合いを御理解頂くために説明しますと、この額は2011年におけるオーストラリア、インド間の双方向貿易の総額である203.5豪ドルを超えています。

そして他国との場合と異なり、この貿易黒字に関して日本から不満の声は殆ど上がっていません。これは我々の輸出品が、日本の経済にとっていかに重要であるかを物語るものです。

日豪の貿易関係はすでに重要なものですが、ここには明らかに、新たな次元へと飛躍する余地が存在します。こうした点から、両国は現在進行中の日豪経済連携協定(EPA/FTA)交渉を開始しました。

障壁が削減された場合、日豪サービス貿易の拡大が見込まれます。オーストラリア人の会計士や弁護士、金融業の専門家は世界中、またここ日本でも常に活躍しています。

また牛肉をはじめ、既に盛んな農産品の輸出も、より一層増えると見込まれます。

しかし一方で、質の高い成果を生み出すには、余りにも長い期間の労力が必要になるといった懐疑的な声も聞かれます。

確かに中国は日本に取って代わり、わが国の最大輸出市場となりましたが、投資を含めた場合、日本は依然わが国にとり、経済分野で最も重要なパートナーです。

先程申し上げたように、日本からの投資はわが国における多くの主要産業にとって欠かせないものでした。

この点は、今でも変わりありません。

日本の対豪投資総額は1,230億豪ドルに及んでおり、わが国への直接投資で世界第3位となっています。

アジアでは、最大対豪投資国として他国を引き離しています。

これは誇張ではなく、日本への輸出需要や日本からの投資がなかったら、わが国の鉱業は今日ほど発展していないはずです。

ちょうど先月、ジュリア・ギラード首相はダーウィンで天然ガスを生産するイクシス・プロジェクトの着工を正式に発表しました。イクシスは単独のものとしては、日本企業がわが国で行う最大の投資プロジェクトとなります。

国際石油開発帝石(INPEX)による投資総額は、340億豪ドルに及びます。これは国内だけで資金を賄うのが不可能な規模です。

本プロジェクトへの投資規模は確かに史上最大ですが、これだけではありません。

ニュー・サウス・ウェールズ州やクイーンズランド州の炭鉱や、西オーストラリア州の鉄鉱山、北部沖にある液化天然ガス(LNG)生産用の油田・ガス田は、すべて日本からの大規模な投資の恩恵を受けています。

同じことは、わが国の自動車産業にもいえます。トヨタがビクトリア州に製造工場を持っている点に、驚かれる方々もいるようです。

同様、日本はわが国の農業にとっても重要です。日本は食肉や酪農、森林製品、穀物の生産者に対して広範な投資を行っています。

無論、日本もこうしたあらゆる投資から著しい恩恵を受けています。

わが国は日本にとって最大の、最も信頼できるエネルギーの供給国です。

またオーストラリアは日本にとり、世界最大の石炭供給国です。LNGの供給でも世界第2位であるだけでなく、その量は急速に伸びています。この4月、初めてわが国のLNG対日供給量が全ての国を上回りました。

言い換えると、わが国のエネルギー輸出は日本の大きな原動力になっています。

2010年には、

  • 関東で発電用に使われた石炭の97パーセント、LNGの12パーセントはオーストラリア産でした。
  • 関西では、この割合は石炭で79パーセント、LNGでは17パーセントになりました。
  • 九州では石炭が65パーセント、LNGが40パーセントでした。

この点から日本国民の方々、及び御列席の皆様には、電気を点ける際にわが国のことを思い出して頂ければと思います。

わが国は他の多くの天然資源においても、主要な供給国となっています。例えば日本の鉄鉱石の62パーセント以上は、わが国が供給しています。

わが国の大手資源企業は、需要に合わせて供給を高められる態勢を常に整えています。最近では、リオ・ティントが更なる生産能力の増強を発表しました。これは無論、利益のためですが、同時に日本に供給の安定性を提供します。

オーストラリアは世界最大の対日牛肉輸出国ですが、他の主要食料においても主な供給国となっています。これには小麦(20パーセント)や砂糖(27.3パーセント)、乳製品が含まれます。

牛肉において、わが国は日本の市場に長期的なコミットメントを表明してきました。

端的に言って、わが国は日本のエネルギー、食料の安全保障を支える存在です。

しかし貿易や投資は重要ではありますが、日豪関係の単なる一側面に過ぎません。

近年特に勢いを増している分野としては、他に防衛と安全保障が挙げられます。

両国における民主主義的価値観の共有や国益の一致に、より一層焦点が当てられています。

日豪は共に米国の主要な同盟国であり、地域の平和と安定は両国にとって極めて重要です。

この平和と繁栄を継続させるための戦略的環境を構築する上で、日本はわが国にとって最も緊密で、信頼できる地域のパートナーとなっています。

両国は2007年に、安全保障協力に関する日豪共同宣言に署名しました。この文書は、安全保障問題で広範な協力を実現させるための基盤を提供しています。

両国はこの年、最初の日豪外務防衛閣僚協議(「2+2」)を開催しました。

オーストラリアは日本が米国以外で、こうした協議を定期的に開催している唯一の国です。

日豪は2010年の同協議において、条約並みの日豪物品役務相互提供協定に署名しました。批准されれば、災害救助や平和維持活動においてより効果的な協力が可能となります。

また一ヶ月少し前に、両国の外務大臣は日豪情報保護協定への署名を行いました。これはこの種の協定としては、日本にとり4本目のものであり、極めて包括的な内容です。

両国が安全保障協力を強化するにあたっては、以上のような枠組みや体制が整っています。

実務面では、オーストラリア国防軍と日本の自衛隊はこれまで、イラクでの活動やパキスタンでの災害救助、東ティモールの再建において行動を共にしてきました。

また昨年は、ここ日本での救助活動で協力し合いました。

わが国は米国以外で、日本の復興に軍事資材面での協力を行った唯一の国です。500トン以上に及ぶ救援物資や機材、車両、人員の国内輸送を行うため、オーストラリアはC-17輸送機を日本に派遣しました。

また福島発電所事故処理用の特殊冷却ポンプを日本に輸送するために、別のC-17機2機の派遣を行いました。

こうした協力は、日豪関係の実情をよく表していると思います。当時オーストラリア国防軍はアフガニスタンで活動していましたが、任務遂行可能なわが国の空輸機は、全て日本での作業に従事していました。

この点からも、緊密な日豪の安全保障協力関係が理解できます。

日豪関係についてはいくらでも語れますが、特にこのふたつの分野に対し、皆様に関心を持って頂きたいと考えています。両分野を見れば、いかにこの関係が重要で、実際に盛んな活動が行われているか、御理解頂けると思います。

日本外国特派員協会では本日の講演会の告知で、日豪関係を「ある意味で、マンネリ化した結婚」と形容していますが、これには異論があります。

実際には、この関係は暖かさに満ち溢れています。

そのひとつの例として、2011年4月におけるジュリア・ギラード豪州首相の来日は、圧倒的な反響を呼びました。この来日は、多くの外国人が日本を脱出していた時期に実現しました。

ギラード首相は、津波の発生直後にわが国の捜索救助部隊が活動を行った宮城県の南三陸町を訪れました。

南三陸町への訪問は、日本政府から大きな歓迎を受けました。上から下まで、私がお会いした誰もが感謝の言葉を口にしました。

同様、国民の皆様もこうした困難な時期に、わが国が支援や友情の精神を示した点に大変感謝して下さいました。

間もなく皆様からの御質問をお受けしますが、最後に御存知のように、この地域は大きな変化に見舞われており、世界経済は多くの不確実性に直面している点を申し上げたいと思います。

こうした変化は日本国内でも起きており、これにより日豪関係は今後の長い将来に、より一層価値のあるものとなるでしょう。

日本の製造業は主に高い品質と費用効率の高さにより、高い評価を受けています。また、有名な日本の商社の力や高い技能も同様です。

しかし反面、人口や経済的要因により、国内の製造業は海外での投資を増やしています。商社も投資を推し進めると共に、国際的なサプライチェーンや生産ネットワークの構築を行っています。

オーストラリア製、日本製の製品が今も存在する一方、オーストラリアが第三国にある日本企業に財やサービスを提供して、よその国で生産される日本製品が増えつつあります。

両国間に新たな補完性や共通の関心が生み出されるにつれ、こうした傾向を通じて、両国間に新しい協力の分野が開拓される可能性が広がっています。

政治や経済における日豪の関係は、他でも様々な協力関係を生み出しています。

気候変動や核不拡散、太平洋地域の発展といった、今日最も差し迫った課題において、日豪は現在、緊密な協力を行っています。

我々は国連やG20、東アジア・サミットで行動を共にしています。

両国民間のつながりも、非常に深いものです。日豪協会は日本中で積極的に活動しており、都市や自治体の間には全部で100以上の姉妹提携が存在しています。また何十万という数の両国民が、観光客としてお互いの国を毎年訪れています。

今夜はこれらの詳細についての説明は省略しますが、こうした交流はある意味であらゆる日豪関係の基盤であり、両国が国益の増進や目標の進展に向けて活動したり、二国間で問題が発生した際に重石の役割を果たしてくれます。

したがって、日豪関係がマンネリ化した結婚であるとは微塵も思いません。

現実には、我々は新婚夫婦のように、溢れるほどの暖かさや高揚感、期待を胸に共に未来に向かっています。

有難うございました。