Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

スティーブン・チョーボー貿易・観光・投資大臣 基調講演:在日オーストラリア・ニュージーランド商工会議所

2017年04月19日

 

東京にて

 

ご列席の皆様、本日お招きいただき幸甚です。

1957年に締結された日豪通商協定の60周年を祝う機に、ここ東京にいることができ、何より嬉しく存じます。

言うまでもなく、同協定は両国の経済発展に、計り知れないほどの役割を果たしてきました。

皆様は日本経済の奇跡について百も承知かと思いますが、戦後日本の急速な工業化には、オーストラリアとの貿易自由化という歴史的な決定が大いに寄与していました。

一方、当時まだ若い国であったオーストラリアにとり、戦後の経済改革において、新規輸出市場の開拓がいかに重要であったのかはそれほど知られていません。

60年前、オーストラリアの貿易額の3分の1近くは対イギリスで占められていました。

オーストラリア経済は当時、主に農業が中心であり、高い関税に保護されると共に、労働・資本市場は硬直し、規制されていました。

今日、オーストラリア経済は革新性と多様性を誇り、自由化が進むと共に、活気のみなぎるアジアの成長市場に深く組み込まれています。

日豪通商協定が締結されたのは、オーストラリアが特にアジアを中心に、貿易のさらなる自由化と多様化を追求し始めた時期にあたります。またこの結果として、オーストラリアは26年連続の経済成長を達成しています。

実際、1957年に署名された同協定は、当時としては極めて革新的で、貿易自由化を強く推し進める内容であったため、政治的な困難を伴うものでした。

締結60周年を祝うべく、オーストラリア貿易投資促進庁(オーストレード)では「日本の対豪投資:健全なパートナーシップ(Japanese Investment in Australia: A Trusted Partnership)」という主要報告書の作業を開始します。

この報告書は、日本の投資家がいかに対豪投資の生産性に対して、高い基準を設定しているかを示すものになるでしょう。これにはオーストラリア国内の雇用創出を始め、地域開発や世界のバリューチェーンへの参加、イノベーション、最新技術の導入による新産業の育成が含まれます。

また近年のサービス分野への投資は、日本の対豪投資が引き続き多様化している点を示すものです。一例としては、日本郵便がオーストラリアの物流大手トール・ホールディングスを2015年、61億豪ドルで買収した点を挙げられます。

この報告書は前向きな内容となっており、日本にはオーストラリア国内での新規投資や再投資の機会、オーストラリアには世界のバリューチェーンで日本とパートナーを組む機会を紹介するものです。また、日豪経済連携協定(EPA)の成果を補完する点も期待されます。

この有意義な取り組みにおいて、日本政府よりご支援を頂いたことを光栄に思います。今後数ヶ月で本研究を立ち上げるのを楽しみにしています。

今日の日豪関係の特質である信頼や互いへの敬意、融和性、経済的補完性といった要素は、将来の強固な礎となります。

日本と同様、オーストラリアは開かれた市場や、ルールを基盤とした国際貿易制度にコミットしています。

こうしたコミットメントは、かつて自国や貿易相手国のために行った自由化の試みが、前向きの成果を生み出すのを実感してきたためです。

こうした楽観主義の精神と共通の価値観を持って、わが国は1957年の日豪通商協定を引き継いだ日豪EPAの交渉に挑みました。

日豪EPAの発効以来、3,400以上のオーストラリアの輸出品目で関税が撤廃され、オーストラリアにとり世界第二位の貿易相手国である日本との貿易拡大が実現しています。

オーストラリアは今でも、主要農業生産国として日本と経済連携協定を締結している唯一の国です。この画期的な協定により、ビジネスが双方向で栄えている点を嬉しく思います。

また日豪EPAを通じて、世界レベルのオーストラリア農産品を味わった日本の消費者の方々より、良い評価を頂いていることを大変喜んでいます。

オーストラリア産の食用ブドウやニンジン、冷蔵牛肉、蜂蜜の日本国内の需要は大幅に増加しています。日豪EPAの実施以降、オーストラリア産ブドウの対日輸出は50倍も増えています。同様に、蜂蜜の対日輸出は倍増、牛肉の輸出額も11億豪ドルにほぼ達する等、25%近く増加しています。

高品質のステーキに欠かせないのがオーストラリア産ワインですが、ボトルワインの輸出額は3500万豪ドルを超え、13パーセント増加しました。

 

一方では日本の輸出業者も、日豪EPAから多くの恩恵を得ています。

日本製の乗用車対豪輸出額を見ますと、17パーセント以上の伸びが見られます。同様に、日本からの施工・光学機器の輸出は40パーセント以上増えています。

今ご説明したような伝統的な分野以外でも、両国の協力は成功を生み出します。

運用されるファンドのクロスボーダーな域内流通を促すアジア地域ファンド・パスポートも、大きな利益を生み出すでしょう。

この制度の運用が始まると、オーストラリアで組成した投資信託を日本の一般投資家に直接販売したり、その逆を行うことが可能になります。

アジア地域ファンド・パスポートは本質的に、ファンドマネージャーのための自由貿易協定(FTA)です。運用されるファンド取引の認証や規制、業務に関する既存の相違点を克服するものです。

この制度は地域に蓄えられる増大した資金を開放し、より多様な投資の機会を投資家に提供します。また代わりに、経済発展、成長のための資金を呼び込むべく、地域の資本市場を深化させるでしょう。

日本が技術大国になった際に日豪経済協力が開花したように、両国はお互いの補完的な力によって、将来の協力が行いやすい立場にあります。

仮想通貨ビットコインの根幹を成す、複雑な信頼のネットワークであるブロックチェーンは、将来あらゆる分野での応用が大きく期待されています。この分野は両国のパートナーシップが、エネルギーと創造的思考により達成できる点を示す見本といえます。

オーストラリアは、ブロックチェーンや分散型台帳技術の国際標準作成において先駆者となっています。一方、仮想通貨が法定通貨として最近認定されたことで、日本はこの分野でイノベーションの最前線に躍り出ました。

例えば日本のいくつかの主要銀行は、日本最大のビットコイン取引所であるビットフライヤー(bitFlyer)に投資を行っています。

この空間のリーダーとして、ブロックチェーンはごく自然に日豪協力の領域となっています。

皆様ご存知のように、デジタル取引という勇ましい新世界では信頼こそが王者です。

この日豪協力は技術の進展という最先端において、金融・銀行サービスの次の進化段階の世界に、両国の身を置かせるものです。

また、この二国間協力は農業など、他の産業にもあてはまります。例えばオーストラリアの新興企業AgriDigitialは、世界初のブロックチェーン適用によるコモディティ管理のプラットフォームを開発しました。このリアルタイム決済のプラットフォームは、安全な代金引換サービスを提供すると共に、生産者がキャッシュフローを維持し、自らの事業にさらに投資を行うのを可能にします。

農業、特に農業技術は、協力が可能なもうひとつの主要分野です。

両国での農業の改善においては、明らかに相乗効果が存在します。

日本はアジアで成長する中産階級を取り込むために、自らのサプライチェーン力や技能、技術の活用を模索しています。

 

これに対し、オーストラリアは人口の少ない北部の活用を検討しています。この地域はこうした成長市場に地理的に近く、未開の環境で新たな農作物生産を行える大きな可能性を秘めた地域です。

私から見ればこの地域は、両国の関係を新たな利益分野へと導く願ってもない機会を提供してくれます。

これに関連しますが、私は今年11月、ケアンズで次回オーストラリア北部投資フォーラムを主催します。

日本企業の皆様にとっても、プロジェクトの所有者や賛同者、オーストラリア北部での農業開発の機会と課題についての専門家と関われる機会です。

両国はすでに、食料や農業分野での長きにわたる貿易上のパートナーです。共に産業中心の研究組織を多く抱えており、新しい要素を果敢に取り入れる点で評価されています。

したがって、生産性や質を向上させる革新的な方策において、ごく自然にパートナーとなっています。

一例を挙げれば、日立製作所は社会を良くする技術ソリューションで政府や企業、地域社会が共に協力できるよう、オーストラリアの社会イノベーション事業に12.5億豪ドルを投資すると最近発表しました。

またいくつかの電力会社は、オーストラリアの広範な電力系統における電柱の状態や安全についての監視、報告を行うために、日立の“ヴィジュアライゼーション・スイート”を活用しています。

日立はまた、ニュー・サウス・ウェールズ州やクイーンズランド州でロボットトラクターの実験のために、GPS先進技術活用の試験を実施しています。

 

準天頂衛星システムを利用したこの取り組みは、オーストラリアと日本のパートナーにより実施されています。

タスマニア州では、三井物産が抗酸化機能の高いスーパーオニオンONIONのオフシーズン供給のため、農家の人々と行動を共にしています。この玉ねぎは長寿や心臓病、持久力、免疫機能に効果を発揮します。

また、北海道にある美瑛町農業協同組合(JAびえい)では、タスマニア州の専門学校と提携して、日本の若い農業従事者が同州で短期の教育プログラムを受けられるようにしています。

この一環として行われる試験プロジェクトでは、タスマニア州と日本の農家が、日本などにオフシーズンの園芸作物を輸出できる基盤を確立させるのを支援します。

私たちにはこの他にも、台頭著しい生命科学や高齢者への質の高い介護の提供といった分野で、より多くのことができる可能性があります。

世界的にも、バイオ医薬品や医療機器といった医療技術市場は伸びており、オーストラリア企業はこの分野で最先端に位置しています。

これらの企業は3Dプリントのチタン移植や、バイオマテリアルと足場素材を利用した心臓の修復、聴覚インプラント、分子診断やがん発見のための診療プラットフォーム等といった隙間市場商品において、世界的影響を誇ります。

この分野における日本の関心と専門性は広く知られており、さらなる協力活動を呼びかけたいと思います。

例えば2015年に署名された再生医療に関わる二国間覚書は、この分野での企業関与の拡大のための基盤を提供しています。

 

私個人もオーストレードや外務貿易省に対し、違う考え方やより幅広い考え方を実践し、新しいアイディアを受入れ、新たな機会を追求するよう促してきました。

ターンブル政権は、野心的な貿易アジェンダの追求や、オーストラリア企業のための新たな輸出機会の創出にコミットしています。

私たち皆が知るように、輸出の拡大は雇用の増大を意味します。国際貿易への開かれた姿勢や、雇用の伸びをもたらす推進役としての投資こそ、オーストラリアの繁栄に欠かせないものです。

貿易と投資は繁栄に不可欠であるとの見方は、日本も共有しています。

まさしくこの商工会議所のような集団こそ、こうしたアイディアをまとめる格好の立場にあります。

しかし私は同じ課題を、皆様にも突きつけたいと思います。

日豪EPAを土台として、私たちが共に協力できる大きな可能性があります。

オーストラリアは開かれた市場、世界貿易機関(WTO)やAPEC、G20のネットワークへの積極的な参加、既存及び交渉中の自由貿易協定(FTA)にコミットしており、これらの全てが主要な貿易国家、及び日本にとってのパートナー国という立場に貢献しています。

世界のルールを基盤とした制度を強化し、保護主義と戦うと共に、将来の雇用創出や両国の成長の中心となる貿易活動を発展させるために、こうした会合の席で日本と協力する機会を楽しみにしています。

日本からの投資は長年にわたり、オーストラリアでの新分野の発展に欠かせないものでした。日本企業の皆様による投資多角化の試みは、オーストラリア経済への信頼の強い証です。

オーストラリアは引き続き、未来の世代の繁栄構築のために、経済全般に対する日本からの投資を歓迎します。

国際貿易の利点を疑問視する声が挙がる中、日豪EPAのような協定を通じて新市場への新たなアクセス確保の効用を示すことは、かつてないほど重要になっています。

ご列席の皆様、本日ここで皆様とご一緒する機会をいただき、感謝したいと思います。

両国がこの60年間に培った力強い貿易関係を、本当に誇らしく思います。また将来私たちがより協力できる可能性に、心からわくわくする思いです。

有難うございました。