Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

マルコム・ターンブル首相 日豪経済委員会主催昼食会での演説

マルコム・ターンブル首相

 

2018年01月18日

ザ・プリンス パークタワー東京

 

リチャード、どうも有難うございます。

小島順彦日豪経済委員会副会長、草賀純男駐オーストラリア特命全権大使、リチャード・コート駐日オーストラリア大使ご夫妻、並びにご列席の皆様。

今回の訪問で、オーストラリア・ニュージーランド商工会議所や他の本昼食会をご支援下さった皆様と共に、日豪経済委員会に再びこれほどの温かい歓迎を受けることは、誠に身に余る光栄です。

これは日豪経済委員会が55年間にわたり、積極的に貢献を果たしてきた、長期に及ぶ日豪ビジネス関係の賜物です。これは当ホテルの横に位置する東京タワーが、上空に優雅さを添えてきた期間に迫る長さです。

また、私たちが本日この席で、3年前のこの週に発効した両国の歴史的な日豪経済連携協定(EPA)により、素晴らしい牛肉やシーフード、ワインを手頃な価格で楽しむことができるのは、オーストラリア輸出業者のおかげです。

さて、前回ここ東京でお話しした際、私はイノベーションや、人・資本・アイディアの自由な流れを強化する道を主導するよう、両国に促しました。しかし私が放ったメッセージは、意図した以上に皆様に文字通り受け止められたのではないかと、現在危惧しています。

皆様はすでに、オーストラリアのラグビー代表ヘッドコーチであったエディ・ジョーンズ氏を引き抜き、彼の発想やイノベーションを私たちの代表チーム、ワラビーズを倒すことに向けさせました。

(笑い)

そして昨年、埼玉スタジアムで開催されたワールドカップ・アジア最終予選では、わが国の代表チームを打ち負かしただけでなく、オーストラリア代表の監督であったアンジェ・ポステコグルー氏が、Jリーグの横浜F・マリノスに参加するため、荷物をまとめて日本に旅立つ結果となりました。しかも、彼のアシスタントまで引き連れてです!

現在私はあらゆる点で、素晴らしい友人である安倍首相と同じくらい、自由で開かれたインド太平洋地域の正当性を信じていますが、しかし時には、ある種の境界線を引く必要性が出てくるでしょう。

(笑い)

冗談はさておき、ラグビー・ワールドカップや東京オリンピックを控え、世界で最も優秀で才能のある人材が、現在国内の改革や再活性化に努める、世界最大の最も豊かな都市に惹きつけられるのを、誰が咎めることができるでしょうか。

日本はこの5年間、安定した政治、経済の案内役として、どちらの安定にも恵まれない世界を導いてきました。

安倍首相は、日本における戦後最長の総理大臣となる流れの中におられます。

日本経済は、多くの人々が可能と考えるより早いペースで成長しています。アベノミクスは機能しています。

株式市場は20年来の高値、企業の利益は過去最高のレベルとなっています。失業率は非常に低く、正直申し上げて、私はその数字を再度確認させたほどでした。労働参加率が急速に高まる時代において、世界でどれだけの国が2パーセント台の失業率を誇れるでしょうか?

労働市場に参加する女性の数が過去5年間に240万人増えたことで、日本経済は押し上げられました。これは驚くべき成果であり、保育所の整備や早期教育、働き方改革により、女性の就業者数は間もなく再び上昇すると思われます。

この状況を経済の停滞と呼ぶのであれば、世界の残りの地域も、これを幾分かは味わってみたいと思うでしょう。

本日私がこの場にいるより大きな理由は無論、日本が自らの新たな政治、経済の安定した基盤をてこに、国際的ルールを基盤としたシステムが最も必要とされる時代に、これを強化しようとしている事実にあります。

この自由主義の、ルールを基盤とした秩序は、大国と小国の両方にルールに従って行動すると共に、互いの主権を尊重するよう要求するルールや規範、制度で成り立つ優れたシステムです。そして、これは戦後全体を通じて、私たちの集団的安全や繁栄を可能にしてきました。

こうしたシステムは私たちの地域で、これまでで最大の持続的な所得の上昇や、世界が見たことのない程のイノベーション、人類の発展を生み出してきました。

日豪両国はこれにより恩恵を得るのと同様、この点に貢献してきました。

しかし、私たちが最近外交政策白書で打ち出したように、国際システムは1940年の始まり以来、かつてない程大きな圧力にさらされています。

この点を念頭に、安倍首相と私はほぼ一年前シドニーで一日を共に過ごしました。ちょうど米国が環太平洋パートナーシップ(TPP)協定を脱退しようとしている時期で、私たちは地域におけるリーダーシップの必要性について話し合いました。そして、私たちがなし得る最も重要な貢献は、TPPを存続させる点であると確信しました。

多くの人々は、TPPは米国市場の魅力なしに成立しないと語りました。しかし安倍首相と私は、市場アクセスによるメリットはきわめて重要なものの、この協定はそれだけにとどまるものではないと捉えています。

自由で開かれた市場が、ポピュリズムや保護主義、地政経済学が組み合わさった圧力にさらされる時代、TPPはこうした市場を持続させる上で保証金のような役割を果たします。

TPPは透明性や法の支配を頻繁に欠く世界において、これら両方の強化を約束します。

TPPは私たちの貿易システムをデジタル世界に引き込み、国営以外の企業に平等な競争条件を提供します。また新しい発想を追求し共有、活用する自由を擁護、拡大すると共に、私たちが踏み出している新しい経済への道のりに見合うルールを創出します。

昨年11月ダナンでAPEC会議が開催された際、日本がベトナムと共に共同議長を務めたTPP会合が同時に開かれ、大半の交渉参加国は、私たちと同じようにTPPを重要なものと見なしている点を示しました。参加国は現在、世界経済において提示された、ルールを基盤とするシステムへの最も重要な貢献としてTPPを捉えています。

TPPの11か国すべてが最初の段階で同時に参加することを、私たちは強く望んでいます。しかし着目しているのは、行動する用意がある国々と共に、一刻も早く新しいTPPを発効させるという点です。

安倍首相と私はこの協定を3月までに署名し、確定させることに個人的にコミットしています。重要な点ですが、TPPの構造におけるひとつの特徴として、開かれた場としての柔軟性が挙げられます。こうした論理、協力のための論理は、非常に説得力を持つもので、いったん立ち上がれば他の国はこれに参加したいと考えるでしょう。これは実際、私たちが現在目にしていることです。

肝要な点ですが、米国が将来望む際に復帰できるよう、またはこれを促すべく、私たちは意識的にこうした手筈を整えています。

私たちは同時に、地域をひとつにまとめる、より大きな自由貿易のシステムを形作るような他のいくつかの取り組みを追求しています。

こうした展望に基づき、オーストラリアは東アジア地域包括的経済協定(RCEP)の交渉に参加しています。ASEAN諸国を中心にインドや中国、日本、韓国が加わるパートナーシップである、質の高いRCEPの実現は、ガバナンスの水準を引き上げると共に、参加国の改革を促進するでしょう。

オーストラリアと日本はアジア太平洋経済協力(APEC)でも、アジア太平洋地域の自由貿易圏形成という、より長期の目標の土台を作るために共に協力しています。

地域の貿易・投資を大きく変える取り組みを追求しつつ、世界の貿易ルールを発展させるために連立を組んで、特定の課題の進展を図るという私たちの手法は、貿易交渉を推し進める新しいやり方です。

世界貿易機関(WTO)の交渉機能について、どのようなことが言われているにせよ、この組織は世界の貿易システムの根幹を成しています。その紛争解決メカニズムは、小国を不利な立場に追い込むような、大国による恣意的で不公平なふるまいを抑える上できわめて重要です。私たちはこうした理由により、WTOが権威を強化し、新しい活力を得るために、引き続きリーダーシップや創造性を提供し、根気ある対応を図っています。

先月ブエノスアイレスで開催された、通常は困難をきわめるWTO閣僚会合において、オーストラリアと日本、シンガポールは、電子商取引において透明で開かれた非差別的な規制環境を推進するべく、大規模な国家グループを協力に導く上で、TPPの交渉スタイルを状況に合わせて変化させました。私たちは将来を見据え、質の高い世界貿易の成果を推進するために、TPPの交渉スタイルを活用するつもりです。WTOのロベルト・アゼベド事務局長は、彼の言うところの「活力の爆発」に、拍手喝采を送りました。

この点が「爆発」と表現されなければならなかったのは残念ですが、活力が増すというのは非常に前向きです。実際、ロバート・ライトハイザー米国通商代表もこの点を同じように「WTOにとって前向きの方策」と形容しています。

さて経済の分野は、短い期間に苦難を乗り越えた結果としての進展がありましたが、安全保障分野における見通しは、依然緊張感に満ちています。

私たちは冷戦の初期以来、これまでで最も複雑で不確かな地域の見通しに直面しています。

金正恩のならず者国家がもたらす存在に関わるリスクが、ここ日本以上に明白である場所は世界にほとんどありません。本日安倍首相と習志野演習場にて、輸送防護車ブッシュマスターや、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)発射システムを視察した際に痛感したのは、まさにこの点でした。

金正恩体制は9月、おそらく水爆であると思われる過去最大の核実験を行いました。また2度にわたり日本の上空を通過するなど、進化した弾道ミサイルを何度か発射しています。

私たちが米国や中国、韓国、国際社会全体と、さらに何ができるのかについて、安倍首相と今夜協議します。経済制裁を実施、強化し、このならず者国家に対し、北朝鮮は不安定性を高める違法な核兵器計画の追求において、完全に孤立している点を示すためです。

わが国の2016年国防白書と最近の外交政策白書では、日本との特別な戦略的パートナーシップにおける重要性の高まりを明確に打ち出しています。

地域の環境が危険性や困難を増す中、両国の防衛・安全保障面でのさらなる協力を推進する戦略的論理は高まる一方です。

私たちは関与を減らすのではなく、これを深めようとしています。この点から今後もあらゆる機会を使って、国益やルールに基づく制度へのコミットメントを共有するパートナーと協力を行っていきます。

さて、両国の優れたパートナーシップの基盤が築かれたのは1950年代、安倍首相の御祖父、岸信介元首相とロバート・メンジス元首相の時代にさかのぼります。

私たちは、いかなる状況下においても信頼できる友人同士です。両国の60年間に及ぶ緊密な信頼関係は、東京の街並みやピルバラの景観に刻み込まれています。この点は、この部屋におられる皆様が重々ご承知の通りです。

しかし今日、資源分野における日豪協力の重要性や度合いについて、十分に理解されていないかもしれない方々が多くいるのも事実です。

ここ日本は94パーセントのエネルギー資源、61パーセントの食料需要を輸入に頼る国であり、信頼や供給の確実性が重要であることは、いくら強調しても言い過ぎにはなりません。

オーストラリアは、日本の鉄鉱石や原料炭の需要における大半を供給しています。2019年ラグビー・ワールドカップや、2020年オリンピックの施設を建てるための高品質の鉄材生産に使われる鉄鉱石や原料炭の多くを、私たちは提供するでしょう。

私たちは日本にとり最大の液化天然ガス(LNG)供給国であり、日本は最大の顧客です。

このつながりは絶えず拡大、深化しています。

日本を訪れるオーストラリア国民は、記録的な数に上ります。ラグビーやサッカーのコーチのみならず、学生や専門家、投資家、観光客などです。

来年には最大100名の学生が、オーストラリア国立大学と立命館大学の間で新たに設けられたデュアル・ディグリー(学部共同学位)取得を目指します。

両国の貿易関係は日豪EPAの後、成長を遂げています。

牛肉と砂糖の輸出は共に、昨年3分の1ほど伸びました。

はちみつとみかん(マンダリン)の輸出は3分の2、バルクワインは50パーセント増えています。

オーストラリアからの輸出の97パーセント以上は現在、関税が撤廃されているか、優遇措置の下で日本に入っている事実は、オーストラリアの企業、及び日本の消費者により多くの機会が存在することを意味します。

そしてさらなる成果として、2018年4月1日に5度目の関税引き下げが実施されます。

習志野演習場での記者会見で本日申し上げたように、私たちは日豪EPA、及び地域の他の国との自由貿易協定のメリットを、国内における雇用の堅調な伸びという形で目のあたりにしています。

昨年は、40万3千という数の雇用が生まれました。これはオーストラリアにおける、月間の雇用者数増加連続記録として、1978年以降過去最高に並ぶものです。まさに優れた成果といえます。自由貿易や開かれた市場は、輸出や機会、投資の拡大を意味するのを私たちは見ていると共に、この点を理解しています。これは同時にオーストラリア、そして無論日本にとっても雇用の増大につながります。

現在、日本による対豪投資は再び増えており、最近では直接投資で英国を追い抜き、世界第2位となりました。

私たちは、熟練労働者に関する規制面での懸念に速やかに対応しました。これは日本の投資が最先端の技術をもたらすと共に、LNG部門を含め、わが国基幹産業の生産性を引き上げるからです。

数か月前、日本の技術はリオ・ティントによる世界初の無人運転列車の走行試験をサポートしました。2.5キロメートルに及ぶこの列車は、世界最長最大のロボットです。

昼食の席で意見交換したように、私たちは日本における再生エネルギー源の統合から学ぶ必要があります。これにはスマート・グリッドや、価格の急激な上昇や変動性を抑え、安定供給を確保するエネルギー貯蔵システムが含まれます。

とりわけ関心を持ったのは、エネルギー貯蔵の方針が、いかに日本の現在のエネルギー基本計画に組み込まれているかという点でした。エネルギー貯蔵は、私たちのエネルギー戦略でも大きな比率を占めています。

日本からの投資は多様化しており、非常に多くの新しいビジネス機会が切り開かれています。

この部屋にいる以外のオーストラリア国民のどれほどが、わが国で最も売れている生命保険商品や、最も象徴的なビールのブランド商品が、日本の企業の手によるものであるのを知っているでしょうか?

加えて、資本やノウハウの流れは、確かに一方向だけではありません。

明日ここ東京の大使館で、オーストラリアの医療機器会社レスメドは、睡眠時無呼吸症候群治療用の革新的な新製品を立ち上げます。

今後数か月で、タレス・オーストラリアは、ベンディゴより4両の輸送防護車ブッシュマスターを日本へ送ります。ブッシュマスターはすでに4両が陸上自衛隊で使われており、安倍首相と私はそのうちの1両を本日、習志野演習場で視察しました。

これはオーストラリアの技術、オーストラリアの国防産業による、またこうした技術がここ日本に輸出された良い例であり、実際多くの国に輸出され、何百人もの命を救っています。

日豪間に芽生える防衛協力は、両国に商業的、技術的な見返りをもたらすでしょう。この点を確かなものとするべく、クリストファー・パイン国防産業大臣に要請しました。

つまるところ、日本は現代の国際サプライチェーンにおける先駆者でした。雁行形態の先頭に立ち、地域全体に技術を広げるのに貢献すると共に、持続的な発展を実現させたのです。

両国の企業はますます、第三国で投資を行うために協力していくと思われます。ちょうどマッコーリーと三菱UFJリースが、韓国や地域の他の国で半導体製造装置に投資するようにです。

インフラへの共同出資においても、同じようにエキサイティングな機会が存在するでしょう。

地域において、こうした需要があるのは明らかです。

オーストラリアは相手がいかなる国であれ、透明かつ公正で、市場のニーズに見合ったすべてのインフラ計画を支援します。こうした価値や規則に基づくシステムの原則、制度を擁護するプロジェクトに関わるオーストラリアの企業を、強く後押しします。

両国を団結させるものをひとつ挙げるとすれば、それは明確で効果的なルール下における、モノ・資本・アイディアの自由な流れに対するコミットメントです。

こうしたルールが時に自らに敵対するように思われる時、例えば全国代表スポーツチームの最良のコーチを失う時でさえ、私たちはルールを基盤とした枠組みを尊重します。こうしたルールの適用が論争となる際は、常に審判を尊重します。

私たちは長年にわたり、自由主義のルールを基盤としたシステムに貢献するべく、共に熱心に取り組んできました。これはこうしたシステムがいかに両国だけでなく、実際にはインド太平洋全域のためになるのかを、目のあたりにしてきたためです。また、これが両国の企業にプラスになる点を見てきました。

略称で言い表される枠組みは、時に重要な響きを欠く場合があるかもしれません。UN(国際連合)やWTO(国際貿易機関)、IMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)、DAC(開発援助委員会)、BEPS(税源侵食・利益移転についての包摂的枠組み会合)、G20、APEC(アジア太平洋経済協力)、ADB(アジア開発銀行)等長いリストになりますが、日本とオーストラリアは、これらすべての創設や持続性において、有益な役割を果たしてきました。

日豪両国の指導力なしには、APECは存在しなかったでしょう。

同様のことは、TPPにも当てはまるでしょう。

両国によるTPPや地域の安全保障への労力の投入は、オーストラリアと同様、日本がいかに野心のレベルを引き上げているのかを示します。日本は、グローバルな利益に目を据える地域の大国です。そして私たちも、自身をそのように見ています。

地域の秩序の形成や持続に、労力を費やしているのは、両国が価値観や国益を共有している点を表すものですが、しかしそれだけではありません。

これは、私たちがあらゆる地政学的、経済的な変動を通じて、二国間関係つまりは「特別な戦略的パートナーシップ」に刻み込んできた不変性や確実性、信頼性の結果です。

お互いの安全や繁栄に投資することで、私たちは同時に自身への投資を行っています。

安全で開かれた、繁栄したインド太平洋地域から、皆が今後も恩恵を得られるよう、私たちは共に、さらなるコミットメントを行っています。

ご清聴ありがとうございました。