Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

スティーブン・チョーボー貿易・観光・投資大臣 在日オーストラリア・ニュージーランド商工会議所昼食会講演

スティーブン・チョーボー貿易・観光・投資大臣

 

2018年07月02日

東京

 

世界の出来事がいかに急速に変化しているかを考えると、感慨深いものがあります。

前回の来日に比べると、人々は自由貿易のメリットにより懐疑的になっています。日本はこうした中、最前線で自由貿易を支持する国としての存在感を発揮しています。日本とオーストラリアはあらゆる困難を乗り越え、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の締結を共に実現させました。

両国のTPPにおける協力は、ひとつの変わらぬ事実を教えてくれます。

それは、日本はオーストラリアにとって、最も貴重な経済・安全保障面でのパートナーの一国であるという点です。決して軽い気持ちで、この表現を使っているわけではありません。

そして日豪関係は力強いにも関わらず、両国は決してこれを当たり前に捉えてはいません。

今週の東京訪問は、こうしたつながりを深める大きな一歩となります。

昨日は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の妥結を望む国の閣僚とお会いしました。RCEPはASEAN10か国と中国、インド、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドをひとつの自由貿易圏にする構想です。

今朝は、世耕弘成経済産業大臣とお会いしました。

今後定期的に開催される、日豪閣僚経済対話初回会合のためです。両政府のトップレベルがこの関係を発展させる推進力となることを、この会合は目指しています。

進化を続ける地域の枠組みやインフラ、デジタル経済といった、戦略的な経済政策における優先事項に焦点を当てつつ、いかに経済面でのパートナーシップを強化できるかについて、私たちは話し合いました。

また世界における貿易自由化を支持し、保護主義に対抗すると共に、市場歪曲的な措置に対処するための協力のあり方を検討しました。

世界の貿易システムが大きなリスクと不確実性にさらされる時に、こうした協議を行うことは重要です。

この会合はまた、三年前に発効した日豪経済連携協定(EPA)による大きな成果を土台としています。

本協定は当時、日本がこれまで締結した二国間貿易協定の中で、最も自由化の度合いが高いという点で称賛されました。間違っていなければ、この点は今も変わらないはずです。

日豪EPAはこれまで、大きな自由化を実現させています。無論、今後もそのはずです。

本協定が完全に実施されると、オーストラリア商品輸出の98パーセントは、優遇措置や無税で日本に入ることになります。

この類の措置こそ、オーストラリア企業や日本の輸入業者と消費者に、目に見える成果をもたらします。長期にわたる両国の経済パートナーシップを、引き続き深化させるのにも役立ちます。

たとえ日常から目を離さなくても、今日の私たちの世界がしばしば予想通りに展開しないことは理解できます。このようなことは最近でも何度も起きていますし、将来も同様でしょう。

こうした点からも、日本と分かち合うようなお互いへの信頼や理解を重んじ、育てていくことが一層大切です。

両国の友情は強固、特別であり、共通の基本的価値観や、補完的な側面のある両国の志の上に成り立っています。そしてこの友情は、これまで幾度も真価を証明してきました。

今後何世代もの人々が、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の優れた成果から恩恵を受けるでしょう。これまで多くの人々が、TPPはおそらく不可能であると伝えてきました。しかし、オーストラリアと日本は力を合わせてこれを主導し、彼らが誤っていたのを証明しました。

両国はパートナーとして、会議に集まった11か国間の合意をまとめるにあたり、指導的な役割を強化しました。

決して簡単なことではありませんでしたが、私たちはあきらめませんでした。

私たちはTPPを、オーストラリアだけでなく、全ての署名国により多くの雇用やビジネス機会をもたらすダイナミックな枠組みと捉えました。

この協定は今日、世界貿易機関(WTO)の設立以来の最も重要な変化であり、世界のGDP14兆ドル近くに相当する市場を網羅しています。

日本の国会が金曜日、TPP関連法を成立させたのを嬉しく思います。

ターンブル首相と私は、TPPの迅速な発効にコミットしています。

このコミットメントは、安倍首相や茂木内閣府特命担当大臣、世耕経済産業大臣といった日本政府のトップの方々と共有するものです。

しかし、これが終わりではありません。

ターンブル首相が今年初めに東京でお伝えしたように、この協定の経済面、戦略面における考え方に説得力があるのは確かです。

このため実際、他の国もこれに加わりたいと思うでしょう。

こうした動きはすでに出ており、私自身TPPが開かれたプラットフォームとなるのに高揚感を覚えます。

TPPの論理は明快であり、高い水準と包括性を備えています。

全ての参加国に大きなメリットをもたらし、地域全体で経済改革を進める力となるでしょう。

これこそ強力な経済パートナーシップの真の価値であり、この点を新旧、持続性という3つの観点で見ていきたいと思います。

従来通り、まずは待ち望まれる新たな展開を見ていきます。

両国の貿易関係は、毎年拡大を続けています。日本での貿易を見ても、スマッシュアボカドからオーストラリア産WAGYU(和牛)ステーキに至るまで、新しい市場が生まれています。

オーストラリアは日本の投資家に対し、医療保険や再生可能エネルギー、医療技術や小売など、多くの従来と異なる分野の可能性を提供しています。

新しさとは、再発見でもあります。新世代の若手ビジネスリーダーや企業家、学生たちはこうした変化に意欲的で、日豪関係に貢献したいと考えています。

さらに日本の文化や交換留学、音楽、ファッション、日本語に魅せられた、新世代のオーストラリア国民が多くいます。

こうした若い男女は、オーストラリアによる日本市場への理解を補う存在で、オーストラリア企業の存在感が日本で薄かった頃の状況を変える役目を果たしています。

彼らは日本語の学習や日本の大学への留学、日本企業での就業に時間を割いています。実際に暮らして文化を吸収することでしか学べないような、詳しい知識を得るのに時間を費やしているのです。

本日はこの場に、次世代リーダーズプログラムの面々や三井教育基金(MEF)、オーストラリア全国農業者連盟の手配により来日中のオーストラリア若手農業従事者が集まっています。

また今週の来日では、この重要な経済関係の進展を重視する、若手ビジネス代表団が同行しています。

オーストラリアには勿論、こうした個人やグループがより多く存在します。若者の同窓会ネットワークは、政府の支援を得て強化が図られ、多くのオーストラリアの若者が、将来日本との関係の育成に関わりたいと考えるようになっています。

日本の人気の高さは、オーストラリア政府が重点的に取り組む、新コロンボ計画の補助金プログラムにも反映されています。これはオーストラリアの若者が海外で暮らし、学び、就業を行うのを支援するプログラムです。

このプログラムを通じて、日本への留学を志願するオーストラリア人学生の数には圧倒される程です。わずか5年の間に、政府は2300名もの個人を日本に送り出しました。

こうしたリーダーや企業家、イノベーターたちが将来新しい機会をもたらし、より深いパートナーシップへと導いてくれるでしょう。

次に、日豪関係の従来の側面を見ていきます。

私たちの歴史や初期の関係とのつながり、これまでの進展に対する理解などです。

メンジス首相率いるオーストラリア政府と、岸首相率いる日本政府は1957年、初の日豪通商協定の成立を歓迎しました。

私たちは昨年、本協定の署名60周年を祝い、当時の両国による先見の明とその取り組みに思いを馳せました。

無論、両国が戦場で敵同士として戦っていた時代から、わずか12年後の話です。

両国はお互いにとり、当時最も先見性に富んでいたと思われる通商協定に署名しました。これは、日豪経済関係がまだ出来上がりつつあった頃のことです。

このためには政治的な勇断と、過去に捕らわれずに未来に目を向ける強い決意が必要でした。

今となっては勿論、疑う余地のない正しい判断であったといえます。それから十年も経たぬうちに、日本は英国に取って代わり、オーストラリアにとって最大の輸出市場となりました。

本日午後、私はこうした力強さや先見性、敬意といった伝統を引き継ぐことを嬉しく思います。

本日午後、オーストラリア政府は第二次世界大戦中に接収した日系企業資料を正式に寄贈し、これを祝福します。

こうした記録の背後には、オーストラリアにおける日本の貿易・投資という伝統を作ってきた真実の物語が存在します。

こうした資料は、両国の貿易関係がオーストラリアが連邦国家となる以前の1890年代に遡るという事実を教えてくれます。実際、記録に残る日本企業のいくつかは、今日もオーストラリアの経済に重要な貢献を果たしています。

これらの記録はまた、オーストラリア政府が戦後の和解に、また1957年当時、オーストラリアの経済政策の基盤となっていた価値観に、いかに持続的にコミットしてきたかを示すものです。

最後に、両国関係の持続性について、このパートナーシップの基盤を長いこと成している安定性についてご説明します。

日本経済は世界第3位、オーストラリア経済は世界第13位であり、共に世界での経済的比重が増える一方と予想される地域に位置しています。

共に課題に直面しているとはいえ、非常に恵まれた位置にあるわけで、補完的なパートナーとして活動を始めるのに格好の立場といえます。

また共に、世界の貿易システムや自由化、予測し得る貿易のルールを擁護するために、強く発言しています。

WTOの枠組みでの日豪の協調的な取り組みは、この多国間貿易体制の強化に力を入れているためです。これには例えば、デジタル取引のための新たな交渉の準備が含まれます。

私たちはお互いに全く自然な形で、長期的なつながりを構築してきました。

明らかな例が、資源・エネルギー関係です。

近年オーストラリアの成長を推進してきた多くの輸出産業の発展において、日本の投資が欠かせない役割を果たしてきたのは周知の事実です。

これには、石炭や鉄鉱石、液化天然ガスといった資源に対する日本の需要を満たす大型プロジェクトが含まれます。

日本企業の国際石油開発帝石(INPEX)は数か月後、西オーストラリア州沖のイクシスLNGプロジェクトで生産を開始します。

この340億米ドル相当のプロジェクトは、対豪直接投資額の規模で見て、ゴーゴン・プロジェクトに次ぐものです。

これに加え、いくつかの優れた官民連携事業(PPI)が、日豪協力の新分野を開拓しています。

ターンブル首相は今年4月、水素サプライチェーン事業の立ち上げを宣言しました。

ビクトリア州のラトローブバレーにプラントを建設し、褐炭から液化水素を製造するという、世界初の試みです。

両国政府による強力な支援や、川崎重工業の主導による企業コンソーシアムの存在など、今日の日豪関係がなかったら、このプロジェクトが陽の目を見ることはなかったでしょう。

これこそ、今後の展開を真に変えるものです。

普通のオーストラリア国民にとっては、雇用や成長、減税、不安定な世界経済に対する耐性の強化を意味します。

今日、日豪関係は新たな水域を探求しています。未来都市における情報の共有やサービス産業の活況が進む一方、新しい時代のニーズに応えるための、抜本的な経済の変化が両国で起きています。

現代的な課題に対応する上で両国が協力を行う中、根底にある安定、協力という永続的な遺産は引き続き大きな存在です。

東京への再訪は、古い友人に再び会いにくるようなものです。今後数日間、日本の方々と会談する中で、この特別な友好関係が次の段階に進むことを楽しみにしています。