Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

AUKUS(米英豪の安全保障枠組み)について

2021年9月27日

マリース・ペイン

オーストラリア政府外務大臣、女性問題担当大臣

 

当然であろうが、この2週間ほど、米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)に大きな注目が集まっている。この新しいパートナーシップは実際、オーストラリアの将来における安全のための協力の大きな一歩といえる。

オーストラリア政府は私たちの地域、及び世界において、より積極的な役割を果たしている。オーストラリアの存在感を拡大し、貢献を高めると共に、発言力を増している。AUKUSについては、こうした姿勢を貫くための他の多くの手段という観点から捉える必要がある。

ポール・キーティング元首相を含めた一部の人々は、AUKUSはオーストラリアを時代錯誤ともいうべき、英語文化圏の概念へと向かわせると論じている。しかしこうした主張は、私たちが多大なる努力を通じて、深く豊かにしてきた多くの関係を敢えて無視している。

私たちは複数の言語圏や大陸において、また様々な政治的信条を持つ友人を持つことが可能である。これは、どちらかを選ぶ類のものではない。それがAUKUSであれ、日米豪印の4か国(クアッド)による迅速かつ前向きな進化、あるいはASEANとの戦略的パートナーシップ、または太平洋諸島フォーラム(PIF)の一員としての、もしくはインド太平洋に関する欧州連合とのパートナーシップに関する精力的な活動であれ、あるいは私たちが域内で築いてきた強固な二国間の友好関係であれ、私たちはあらゆる機会を捉えなくてはならないし、そうしていく所存である。

では、なぜその必要があるのか? それは周辺においてではなく、今後数十年間に全国民の繁栄や安全に影響を及ぼすきわめて抜本的な形で、世界が変化しているからである。

中国は主要国家として、自己の存在を主張しており、国際的な支持を広く得ると共に、世界にメリットを広く提供している規則に基づく制度に圧力をかけている。こうした新たな戦略的領域において、多くの国々はより精力的な競争を行っている。だが熾烈さを増すこの競争により、絶望や停滞へと駆り立てられる必要はない。これはむしろ、新たな危険と共に機会が存在するということであり、単に受け身でいる選択肢はあり得ないことを指す。

この2週間、国際的な関与の場で繰り返し述べてきたように、オーストラリアはインド太平洋地域の繁栄と経済的安定を、数十年にわたり支えてきた国際秩序の維持と形成のために、競争していかなくてはならない。私たちは地域の重要勢力として、そうするだけの影響力と手段を備えている。

オーストラリアは強力で現実的な外交を通じ、国の規模や経済発展の度合いに関わらず、全ての国々の主権や権利が尊重されるよう、地域の均衡を図ろうとしている。

国防大臣と私はこの2週間、インドネシアやインド、韓国、米国を訪れ、外務・防衛担当閣僚による重要な2プラス2協議を開催してきた。またニューヨークでは、東南アジアや南アジア、欧州、英国、中東、国連機関など、一連の外務大臣及び外務担当者と面会を行ってきた。

わが国の首相は、初の対面による日米豪印首脳会談に参加し、4か国(クアッド)が共に推進する現実的で志の高いアジェンダについて、歴史的な確約を行った。

わが国とパートナーの国々はこれらの関与を通じ、公平なワクチンの分配や新型コロナウィルスからの経済再建、低排出技術、インフラ投資、重要技術、教育、サイバーセキュリティ、宇宙、偽情報対策などの分野で協力を深める点に合意した。

オーストラリアの外交において、これ程までに重要であった2週間というのはほとんど存在しない。ワシントンでは米国の担当者と並び、同盟国やパートナー国とのつながりこそ、私たち最大の戦略的資産である点を繰り返し強調した。またANZUS条約の締結70周年にあたっては、私たちの歴史を祝うだけでなく、確固たる未来に目を向けた。

これらは良き友好関係、純粋な友情である。

オーストラリアでは時折、地域における勢力の変化に対応するために、わが国の考え方や価値観、個性を変えるべきであるといった視野の狭い、偏狭な論調が見られる。

この6年間、国防及び外務大臣を務めるという名誉に授かった立場から、オーストラリアは地域に誠実に、かつ一貫した形で関わる際に、敬意を払われる点をここに断言したい。

私たちは誇りある民主主義国家であり。協力の多くは、自由や開放性、言論の自由、人種や宗教、ジェンダーを超えた人権や平等への信奉といった共通の価値観に根差している。その一方で、私たちの手法は包摂的であり、主権を守り、尊重する地域の枠組みにおいて、各国が自身のままでいられる余地を認めている。私たちの価値観が、パートナー国の利益と一致している点こそ重要である。

連立政権が強化してきたこうした関係は、私たちがAUKUSのような措置の目的について、率直な対話を繰り広げている点を示している。ASEANのパートナー国を含めた幾つかの国は、核不拡散に関する当然の質問を私たちに投げかけ、私たちはこれに対応してきた。AUKUSにおけるオーストラリアの取り組みは、わが国の核不拡散義務に完全に沿ったものである点を、今後も友好国に伝えていく所存である。

新型コロナウィルスがもたらす制約にも関わらず、前例のない形で会合や発表が相次いだのは、外務や国防、情報、保健・厚生、エネルギー、経済といった政府の各担当部門が、国益の実現という一致した目的のために一丸となったことを示している。

AUKUSは他の枠組みに取って代わるのではなく、これらを補完する重要な措置である。この枠組みを単独で捉えようとすると、肝心な点を見失う。オーストラリアは、地域の重要勢力としての強みを提供し、国際的責任を果たすといった広範かつ長期的な取り組みを進めている。この取り組みは今後、複数の政権がさらに推し進めるであろう。久しく政権の外にいる者や、現在起きている重要な戦略的変化の最前線に身を置いていない者からの圧力にもめげず、労働党がAUKUSに超党派の支援を提供してくれた点を歓迎したい。

安全保障や繁栄において、ある程度の危険を冒さずに成果を得ることは難しい。オーストラリアはこのような理由から、新型コロナウィルスの独立調査への要求を含め、パートナー国の関与を実現させたり、主要な国際機関のトップの地位を目指したり、地域や国際社会のパートナー国との外交や防衛、貿易関係を公式に格上げするなどしてきた。より最近では、先週オーストリアとの間に、戦略的協力協定を署名している。

バイデン大統領は、米国には“オーストラリアほど緊密で信頼できる同盟国は存在しない”と語っている。私たちは外交政策において、危険や脅威に直面しても確固たる姿勢を貫くと共に、これらを未来の世代に残したり、いたずらに今以上に煽るのではなく、上手く管理するという点で重要な一貫性を示してきた。

こうした一貫性や外交に対する現実的な手法により、私たちは世界中で高い評価を受けている。オーストラリアは、こうした点を土台に今後も歩み続けると共に、新しい友好関係の構築や旧知の関係の強化に努める。そうすることは、オーストラリア国民と国際社会に対する私たちの責任である。