2016年9月、前年の来日公演が好評を博したオーストラリアのジャズピアニスト ポール・グラボウスキーは、モナシュ・アート・アンサンブルの精鋭ミュージシャン3名と、カルテットとして再来日しました。カルテットは、「東京JAZZ」に出演した後、東日本大震災で被災した岩手県沿岸地域の小中学校でのワークショップを含む日本ツアーを実施しました。
モナシュ・アート・アンサンブル(以後、MAE)は、モナシュ大学のサー・ゼルマン・コウエン音楽学校に所属する音楽グループで、同大学で教授を務め、現在モナシュ舞台芸術アカデミーのエグゼクティブ・ディレクターのポール・グラボウスキーによって2012年に設立されました。MAEは、プロジェクトごとにモナシュ大学の職員と学生がオーストラリアの有力ミュージシャンと共に、音楽活動に取り組みます。
米国の伝説的なクラリネット奏者ジョージ・ルイスやトランペット奏者デーブ・ダグレス、イギリスの作曲家ジャンゴ・ベイツ、そして偉大なポーランド出身のトランペッター、トーマス・スタンコを含む国際的に活躍する一流のジャズミュージシャンや即興ミュージシャンと組むことにより、 4年間で多大な成功を収めました。オーストラリア北部準州出身のアボリジナルの歌手であるダニエルとデイヴィド・ウィルフレッド兄弟と収録した「Nyilipidgi(ニリピジ)」は、ARIAミュージック・アワードというオーストラリアの音楽業界の優れた作品を称える音楽賞にノミネートされました。
本ツアーには「ポール・グラボウスキー・カルテット」としてピアノのポール・グラボウスキー、サクソフォンのロバート・バーク、ベースのジョナサン・ザイオン、ドラムのルーク・アンドレセンが来日しました。彼らの最初のライブは、東京JAZZで行われ、ハービー・ハンコックやパット・メセニーなど大物ジャズミュージシャンも参加しました。彼らのショーのハイライトの一つは、尺八奏者の中村仁樹とのコラボレーションでした。
東京を後にしたMAEは、東日本大震災の被害を最も受けた地域の一つである岩手県沿岸部を訪れました。この地域での津波は8メートル以上にも到達したとされています。 1,600名以上の人々が犠牲となり、その被害は甚大でした。
こうした被害を受けた人のためを支援したい想いから、MAEはこの地域の複数の学校を訪問しました。音楽を通して、子どもたちに刺激を与え、表現の手段でトラウマを癒して解消するということを演奏によって伝えました。
「ジャズはコミュニケーションの手段であり、そしてコラボレーションすることによって生まれるもの。ジャズは文化の多様性を表現し、即興性がある音楽なので、現代のオーストラリア文化の最も前向きな側面を表現している。このことをジャズに精通している日本のオーディエンスのみならず、東日本大震災の津波被害によって喪失やトラウマを経験した子どもたちにも共有することは、我々にとっても有益なことだ。」とポール・グラボウスキーはコメントしました。
MAEは、岩手県のジャズ奏者ならびに伝統的なミュージシャンともワークショップを行い、日本ツアーの終盤は、盛岡で毎年開催されるいわてJAZZに出演しました。
今回の日本ツアーで収めた大成功は、将来的に日豪のミュージシャンと音楽の学生によるコラボレーションの発展に寄与するだろう、とグラボウスキーは述べました。
「本ツアーでMAEは貴重な経験を積むことができただけではなく、日本のジャズシーンで有力な多くの人とつながることができた。コンサートはすべて盛況で、反応は一様に肯定的だった。現在、私たちは複数年にわたる協力と交流について話し合っている。日豪の二国間プロジェクトは将来を見据えている。」
本プロジェクトは豪日交流基金の助成を受けて行われました。
(写真:モナシュ・アート・アンサンブルは、岩手県陸前高田市の気仙小学校を訪問し、子ども達のためにワークショップを 行いました。写真提供:外務貿易省)
(写真:オーストラリアのジャズミュージシャンであり、またモナシュ舞台芸術アカデミーのエグゼクティブディレクターである ポール・グラボウスキーを岩手県の小学生が歓迎しました。写真提供:外務貿易省)