Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

ウォン外務大臣 全国記者クラブ講演 「地域の勢力均衡におけるオーストラリアの国益」

ペニー・ウォン

オーストラリア政府外務大臣

2023年4月17日 

 

全国記者クラブの皆様、本日はお招きありがとうございます。また紹介いただいた、本日の進行役を務めるジェーンにも感謝します。

皆様、ご出席有難うございます。本日は、外交関係者や同僚のパット・コンロイ大臣も列席されています。 

また本日のゲストの中に、アラン・ギンジェル氏がおられる点に触れないわけにはいきません。

アランは何十年にもわたって公式、非公式の政府顧問を務め、常にオーストラリアの国益のために並外れた手腕を発揮してきました。 

彼はオーストラリアの外交政策に関して、最も信頼できる歴史家であり、最も優れた書き手です。率直に言って、オーストラリア外交政策における最高の知性であり、おそらくは最も謙虚な人物であると思われます。

ここで本日の会場となっている、この地の伝統的所有者であるヌナワル、ナンブリ部族の方々を称えると共に、過去、現在、将来における長老の皆様に敬意を表します。 

先住民の人々は、この地で最初に外交や貿易に従事しました。

しかしながら、オーストラリア初代のジャスティン・モハメド先住民担当大使が着任したのは、今月になってからのことです。 

先住民の人々の見方をより重視することは、国際社会や地域、特にブルーパシフィックにおける私たちのつながりの強化につながります。

こうしたつながりが持つ潜在的な力は、あまりに長いこと無視され、弊害をもたらしてきました。こうした中、私たちはあらゆる要素を活用すべき時に来ています。

まず活用すべきなのは、明らかに私たち自身です。外遊時には、まず私たちが何者であるかの説明から始めるようにしています。この大地こそは、地球最古の現存する文化、300以上の異なる先祖の故郷です。

この国には、世界中の実に多くの民族と共通点を持つ人々が集まっています。

わが国民が世界に目を向ける時、私たちは自身がそこに反映されているのに気づきます。ちょうど世界が私たちの中に、自らが反映されているのを知るようにです。

これは、世界中の人々と共通点を積み上げる能力を私たちが持つことを意味します。これこそ連携を築く際に、また私たちのだけでなく、世界中すべての人々の利益を守る決意を語る際に、自然に備わった大きな財産といえます。

この点は重要です。というのも外交政策とは、私たちの価値観や国益、私たちが何者であり何を欲するのかについての、正確で純粋な反映でなくてはならないからです。

この点が重要なのは、私たちの国力というのは、何よりも国民に由来するからでもあります。

抑制のない、地域の戦略的競争が大きな影響を及ぼしかねない中、国益増進のために国力のすべての要素を生かす必要があります。

この点から本日、いかに戦争を回避し平和を維持するか、またそれ以上に、いかに私たちの国益や共有する地域の利益が反映された地域を作るかについて、お話したいと思います。

こうした利益は、地域がルールや基準、規範によって営まれる時に実現します。そこでは、大国が小国の運命を決めることはなく、各国は自らの願望や繁栄を追求できるでしょう。

また、自らが望む地域を構築することで、いかに平和を保つ地域の勢力均衡に貢献するのかについてもお伝えします。

戦略的競争はいくつかのレベルで起きています。切り離して考えがちな経済や外交、戦略、軍事的領域はすべて密接に絡んでおり、すべて激しい競争という枠組みで括られています。

しかし私たちは競争のあり方の把握だけでなく、競争の目的は何かを理解する必要があります。大国同士の単なる対抗意識ではなく、これは実際には、地域や世界のあり方をめぐる争いに他なりません。

多くの評論家や専門家は、地域で進行中の出来事を、大国同士の優位性をめぐる競争という観点から捉えたがります。ここでは二項対立が好まれます。確かにこうした考え方は単純で選択しやすく、白黒がはっきりするため、魅力的なのは明らかです。

しかし地域の将来を、単に優位性をめぐる大国間競争という観点から見てしまうと、各国の国益の観点がぼやける可能性があります。

これでは各国が、大国を経ずして、自ら関与しようとする力が損なわれます。

さらには、キネティック(動的)な戦闘とは呼べない行動でさえ、地域の利益を脅かす状況において、こうした議論を、沿岸での動的な戦闘の可能性に限ってしまうのは有益ではありません。

強圧的な貿易措置や持続不可能な融資、政治的介入、偽情報、貿易や人権といった小国を利する国際的ルールや基準、規範の書き換え−こうした要素はみな、各国が主体的に行動したり、地域の均衡に資する、あるいは自らの運命を決める能力を奪います。

争いの激しいこの地域で、私たちのような国は国益が何であり、いかにこれを守るかについて、より焦点を定める必要があります。

自らの国民が決めた法律や価値観に沿った暮らしや、自らの繁栄の追求、選択の実施、他国への敬意と他国への服従の拒否−これらを実現するのに何が必要であるのかに、注視しなくてはなりません。

運命を他国に委ねないためには、また自らの意思で決定できるには、何をすべきかという点に私たちは傾注する必要があります。少しでも疑うようでしたら、ロシアによるウクライナの違法かつ不道徳な侵略が、どの国も支配せず、どの国も支配されない地域に暮らしたいという私たちの関心を明らかにした点を考えてみてください。

オーストラリアが絶えず、この点に照準を定める必要があったのは確かです。この点は特に現在そうです。地域がある意味、かつてない状況に直面しているためです。

こうした状況では国政術において、かつてない程の調整や志に基づく対応が求められます。

南シナ海では、複数の国による領有権の主張が重複しており、緊張が高まっています。

さらに係争中の拠点の軍事化や、海空での危険な遭遇が、こうした問題を複雑にしています。

中国では、世界でほぼ百年近く見られなかった速度や規模で、継続的に軍隊が近代化されています。その戦略的意図には透明性がなく、言及されることもありません。

昨年8月、中国の弾道ミサイル5発が、日本の排他的経済水域に落下したと伝えられました。また中国は先週、台湾周辺で攻撃や封鎖訓練を実施しました。

北朝鮮は核兵器プログラムや弾道ミサイル打ち上げを継続し、日本や韓国、より広範な地域の友人を威嚇するなど、引き続き不安定性をもたらしています。

こうした要因のすべてや誤算のリスクを考えると、この数十年間で最も困難な状況が生まれています。

ヒマラヤ、台湾、朝鮮半島あるいは他の地域であれ、私が地域の発火点について、断固として憶測を行わないよう努めているのはこのためです。

特に台湾に関しては、今後の時間的推移やシナリオについて、政界やメディアで非常に興奮した議論が展開されています。私のように、こうした議論を伯仲させたい衝動に駆られる立場にある者は皆、こうした誘惑に抗するべきです。

これこそ、最も危険なゲームといえます。

私のやり方は、政治家として仮定の質問を避けるのみではありません。国益を率直かつ明確に見極める姿勢を取っています。

私たちはいかなる現状の変更も望んでいません。脅しや力の行使、強制なしに、対話を通じて台湾海峡の問題が平和裏に解決されるよう求めています。

これは断言したいのですが、台湾をめぐる戦争は、すべての国にとって壊滅的であるからです。

戦争の真の勝者など存在しないこと、総合的に見て、現状維持が他の選択肢より優れていることを私たちは知っています。困難であり、保証や抑止力を必要とするでしょうが、戦いを避け、地域に平和と繁栄の暮らしを実現させる最も強い力を持つのがこの提案です。

何らかの誤解が生じないよう、いま全国記者クラブでお伝えします。私たちの仕事はあらゆる戦争の可能性に関わる熱気を抑え、他国に同様の措置を取るよう圧力を高めることです。アルバニージー政権はこの点を国内、外交において実行しています。

こうした考え方は、新聞の売り物にはならないかもしれません。けれども、より長期的には販売の助けになるでしょう。

アルバニージー政権は特に対中関係において、静かで一貫した態度を貫くと共に、発足以来の姿勢を保ち続けるでしょう。可能なところは協力し、必要な時に異を唱えつつ、相違点には賢く対処します。何よりも国益に従事し、精力的にこれを追求するでしょう。

私たちは、中国は中国であり続けるという現実からスタートします。

例えば、中国は世界第2位の経済大国であり、世界GDPの18パーセントを占めています。中国の成長物語は自国民や地域、世界の貧困を和らげるのに、きわめて重要な役割を果たしてきました。

その劇的な経済成長は、オーストラリアの繁栄を牽引してきました。

多様化の進展をもっても、中国はしばらくの間、わが国最大の貿易相手国、及び私たちの国益にかなう領域における貴重な対豪投資国であり続けるでしょう。

習近平国家主席は、中国は今世紀半ばまでに、総合的国力と国際的影響力において世界をリードする、社会主義現代化強国を目指すと明言しています。

どの国もそうですが、中国は自らの国益増進のためにこうした力を展開すると共に、この点での影響力を行使するでしょう。

こうした国益は私たちの、また地域の他国の国益とは異なるのを、私たちはしばしば認識しています。

重要なのは、中国は好ましい成果を通じて、また、好ましくない成果の可能性を減らしたり、見解の不一致や反対意見の余地を減らすことで、国益は増進されると理解している点です。

こうした理解は中国の一貫した国政術により、組織的に行き渡っています。

中国のような大国は、自らの強靭性や影響力を最大化するために、国内産業政策や巨大な国際インフラ投資、外交や軍事力、市場へのアクセスなどあらゆる手段を活用します。

こうした国政術は、私たちや東南アジア、太平洋のパートナーのような中堅国家にとって挑戦となります。

私たちはしかし、中国による優位性の限りない拡大に衝撃や怒りを感じることに、エネルギーを浪費する必要はありません。

私たちは代わりに、自身の強みを実現させる点にエネルギーを傾注します。

私たちは自らの国政術を展開し、安定、繁栄し開かれた地域の構築に向けた努力を行います。合意されたルールや基準、法によって営まれる予見性のある地域の実現に努めます。そこではいずれの国においても支配、被支配がなく、主権が尊重され、あらゆる国が戦略的均衡の恩恵を受けます。

こうした地域では、異なる意見が守られます。

こうした地域では、国の主体性が保たれます。

こうした地域では、自らの運命を決めることができます。

私たちの言う国益とは、まさにこうした状況を指しています。

このような地域は、単に自然に存在するものではありません。特にルールの書き換えを欲する国がある場合は、国家レベルの努力を要します。

こうした努力をオーストラリア政府の一部門にのみ、任せることはできません。

また外交官だけ、軍隊だけでも不可能です。私たちの国際社会活動は、私たちのアイデンティティや国内での活動を補強する、もしくはこれらに補強されるものでなくてはなりません。

私たちの国力のすべての要素に、力を注ぐ必要があります。

経済の多様化や製造業の国内拡大、気候変動への対応、オーストラリアの再生可能エネルギー大国化、全国汚職防止委員会を通じた体制に対する国民の信頼向上、サイバーセキュリティの必要性への対応、教育・訓練への投資、生活を維持するサービスの強化、賃金の増加−これらはすべてオーストラリアをより強固にし、外的衝撃への抵抗力を高めてくれます。

私たちの経済安全保障や、多文化民主主義国家としての国内の強靭性、国際的関与は、共に結びつく形で私たちの国政術を形作っています。

アルバニージー政権は国力のあらゆる要素を展開し、国内ではオーストラリアの安定性や自信、安全を高め、国際社会では影響力の増大を図っています。

その国政術の中枢にあるのが外交政策であり、国民の安全を高め、経済力を確保するために、地域と世界の両方で、オーストラリアの国益や価値観の増進に努めています。

これはこの地域の性質が、私たちの利益により近づくような地域構築を行うために展開する戦略であり、紛争の回避や平和の維持を目指します。

これはまた、地域の国々が望むものでもあります。ASEANは「地域を不安定にし、最終的に大国間における誤算や深刻な対立、あからさまな戦い、予測不能な結末につながりかねない」行動に懸念を表明し、多国間主義やパートナーシップ、協力の維持を要求してきました。

冒頭で述べたように、戦略的競争とは、どの国が一番で競争の先頭にいるのか、あるいはインド太平洋地域で戦略的優位性を獲得しているのかだけではありません。

実際には、地域の特質に関わる問題です。これは私たちの安全や繁栄を支え、開かれた包摂的な地域においてアクセスを保証すると共に、競争を責任ある形で管理してくれるルールや規範の問題です。

域内での外遊を通じてはっきりと感じるのは、一大国が自らの国益のためにルールを決めるような、閉鎖的かつ階層的な地域に暮らしたいとは、どの国も望んでいない点です。

そうではなく、私たちはあらゆる規模の国が自身の運命を選べる、合意されたルールに基づいた、開かれた包摂的な地域を欲しています。

各国が望むのは?栄し、つながった地域であり、世界の経済成長の中心で、経済の相互依存性が政治、戦略上の目的に悪用されることなく、透明なシステムを通じて共に交易したいと望んでいます。

また、平和で安定した地域を願っています。これは、攻撃や強制を抑止できるだけの十分な均衡が保たれるということです。この均衡を持続させるためには、オーストラリアを含め、より多くの国が貢献を行わなくてはなりません。

この均衡にあっては、外交を通じた戦略的な保証が軍事的抑止力に支えられます。

大国間競争を戦争に発展させないためのガードレールという考え方を、オーストラリアが重視するのはこのためです。

ガードレールとは、大国間であらゆるレベルで信頼の置ける、開かれた連絡の経路を保ち、誤解や誤算のリスクを最小限に抑えようとする仕組みを指します。ここでは、各国のセキュリティ政策に制限が課されます。

キューバのミサイル危機を受けて採用されたガードレールは、手本となります。

バイデン大統領は中国に対し、ガードレールに合意するよう申し出ました。彼の提案が受け入れられれば、世界中のためになります。私はこの点を中国の外相、及び彼の前任者に伝えました。今後も言い続けることでしょう。

これからも外遊において各国の同僚に対し、大国間競争の責任ある管理を求めることは、地域の平和と安定に実体的利益を有するすべての国にプラスとなる点を、伝えていくつもりです。

実際、この点はインド太平洋地域を超える利益となります。

あらゆる国が戦争を避け、平和を維持するために主体的に行動する必要があります。

この目標の支持こそ、オーストラリア外交の最重要点です。

この営みは、現場で外交政策を担う外交官の力から始まります。

私は、本日この場にいるジャン・アダムズ次官が、巧みに率いる外務貿易省の存在を絶えず誇らしく思います。

彼らは重要な戦略的洞察や警告を提供し、私たちの国益を強力に推進しています。彼らは会合の場にいて、影響力の行使や説得にあたっています。また、パートナー国と共にオーストラリアの援助を実行したり、助けを必要とする国民に、重要な領事支援を提供しています。

前政権が私たちの外交力に対するリソースを長期的に確保しなかったために、海外におけるオーストラリア在外公館の設置範囲は、現実には縮小しました。

太平洋ステップアップの掛け声の割に、モリソン政権は実際には、自由党の政権就任当時よりも、太平洋地域に関わる外交官の数を減らしました。

この他にも、開発援助プログラムへの予算を118億豪ドル削減しています。そしてこれによって生じた空白は、他国が埋める結果となりました。

私たちの最初の予算では、地域の強靭化のため、2011−12年以来、単独で最大の政府開発援助(ODA)増額を行いました。

アルバニージー政権は間もなく、新たな開発政策を発表します。開発援助は、国政術の中枢に位置します。これは地域のパートナー国が、経済面での強靭性をより高め、重要なインフラを発展させるのを支えます。また、こうした国が他国にあまり頼らなくてすむよう、自らの安全を確保するのを助けます。

これらすべての措置が、首相、政府の他の者によって主導されています。

現職への任命を受けてからの11か月間で、私は30か国を訪れました。そのうちの5か国には複数回訪問しています。

今週のニューカレドニア、ツバルへの訪問を合わせると、外相として、太平洋諸島フォーラム全加盟国に足を運ぶことになります。

私たちの取り組みは、太平洋地域から始まる必要がありました。これは、この地域が家族のような存在であるからです。また、前政権による欠陥を是正するためであり、労働党のDNAに刷り込まれているからです。

パプア・ニューギニアがオーストラリアから独立した時の、ゴフ・ウイットラム元首相とマイケル・ソマレ初代首相の協力関係を思い出してください。ウィットラム首相は数々の目ぼしい改革を実行した人物ですが、このように語っています。

「歴史が私の公務におけるすべての功績を消し去るとしても、民主的なパプア・ニューギニアの独立に対する私の貢献さえ忘れずにいてくれたなら、私は満足だ。」

太平洋地域の多くの国は、大国の競争が大惨事や紛争に発展する現実を生きてきました。彼らの主体性は脇に追いやられ、その声は無視される状況にありました。

オーストラリアの安全保障上のニーズにおける、太平洋島しょ国の戦略的重要性を疑問視する人々は、いずれも最小限の歴史しか知らないといえます。

私たちの戦略的状況はこの50年間で変化しましたが、地理的な状況が変わったわけではありません。私たち自身の安全における、太平洋島しょ国の中心性も同様です。

戦略的競争が地域に蘇る中、私たちが協働し、太平洋島しょ国の優先事項に対応する時にこそ、またこうした国々の体制に敬意を表する時にこそ、安全は強化されます。

太平洋ファミリーの一員として、私たちが優先するのは、ブルーパシフィックが平和や繁栄を維持し、時の課題に対応する準備が整っているのかという点です。

太平洋ファミリーの結束を支えるべく、私たちが地域の相手国と緊密に協力するのはこのためであり、地域の最も重要な問題について、太平洋島しょ国の発言権を引き続き高めようとしているのもこのためです。

オーストラリア及び太平洋諸島フォーラム(PIF)は、太平洋ファミリーは太平洋地域の安全に責任があるという見方をしています。

私たちは、太平洋地域で起きている出来事を現実的に捉えています。私たちは、かつてのような状況には戻らないことを知っています。

太平洋島しょ国の体制を他国が尊重しない時、また、他国が持続不可能な債務負担を課す時、あるいは発表の後に地域社会を利する実行が伴わない時、私たちは明確に懸念を表明しています。

私たちは、地域の国々が自ら選ぶパートナーでありたいと考えています。パートナーであって、家長的存在ではありません。

私たちは前政権が9年もの間軽視してきた、気候変動における真の行動を起こしました。

4年間の政府開発援助を、10億豪ドル近く増額しました。

またインフラ投資を増強し、太平洋地域のニーズに見合った気候対策への投資を実現させるべく、専門の気候インフラ・パートナーシップを立ち上げました。

この他、太平洋労働移動プログラムを拡大・改善すると共に、パートナー国政府と協働し、習得した技能がすべての人々に恩恵をもたらすよう努めています。

私たちはまた、海洋安全保障協力を強化し、バヌアツとの二国間安全保障協定に署名しました。パプア・ニューギニアとの協定締結も、進展を遂げています。フィジーとは、軍の地位協定に署名を行いました。また、大規模なサイバー攻撃からの基幹サービスの復旧作業において、パートナー国を支援したり、バヌアツでの最近の二度にわたるサイクロン発生時のような、自然災害への対応も行っています。

私たちは地域のパートナー国が経済の強靭性をより高め、重要インフラを発展させると共に、他国にあまり頼らずに自らの安全を確保できるための支援を行っています。

こうした努力がなければ、今後も他国が空白の部分を埋めようと行動し、オーストラリアは自由党・国民党政権時代のように足場を失っていくでしょう。

太平洋地域への取り組みにおいて、私たちは、より小さい国が影響力や効果、主権を高めるために協力していくことを原則としています。これはオーストラリア外交政策の基本原則であり、オーストラリアで最も偉大であったハーバート・エバット元外相の取り組みを基盤としています。

最盛期におけるオーストラリアの外交政策は、決して「大国との関係をどうするか」のみにとどまりませんでした。

私たちのような国には、力をルールで縛るような国際体制が必要です。

これこそが、エバット元外相がサンフランシスコ講和条約で実現しようと必死に試みたことでした。私たちの国益は、当時の大国に気に入られるだけで適うものではないと理解していたのです。

しかしメンジース元首相やハワード元首相など、オーストラリアの歴史には、私たちの外交政策とは、単に私たち自身を大国に引き寄せることであると考える人々がいました。

今後覇権的になると思われる中国に接近していくべきだと、ほのめかす人々も今では存在します。

しかしアルバニージー政権は、オーストラリアのために、常により野心的であり続けるでしょう。私たちは絶えず、さらなる自立やより積極的な外交政策を追求していきます。

私たちは本日、エバット元外相の功績を時代に即した内容とします。私たち皆を利するような均衡を維持するために主体的に行動し、パートナー国や友好国と協働します。

私たちが、域内のパートナー国と貴重な二国間の戦略的協力を通じて実現しようとしているのは、まさにこの点です。

これこそASEANや太平洋諸島フォーラム(PIF)との地域のパートナーシップを通じて、実行しようとしている点です。

アルバニージー首相は来月、モディ首相や岸田首相、バイデン大統領をオーストラリアに歓迎します。私たちはこの時にクアッドによる重要な貢献や、自らの存在において戦略的均衡に貢献する日本やインドの力や比重、その影響力を認めるでしょう。

また、AUKUSは米国や英国との関係の進化を象徴するもので、オーストラリア自身が地域でより強力なパートナーとなるのを支えます。

私たちの取り組みは、太平洋地域においても東南アジアにおいても大切です。

先程の話題に戻りますが、東南アジアを大国間競争の舞台としてのみ捉える人々がいます。

これは、私たちが共有する見解ではありません。

こうした捉え方は、持続的、中心的な体制を持つASEAN加盟国から、影響力や力強さ、主体性を奪ってしまいます。

国益や集団的利益を追求し、主権的決定を行う力を奪ってしまいます。

こうした見解では、東南アジア諸国内及び諸国間に存在する複雑な力学が捉えられなくなります。域内諸国が戦略的競争に直面する中で、いかに自らの影響力を最大化しようとしているのかが分からなくなります。

また、南シナ海などの主権に対する直接的な真の挑戦に、彼らがいかに対応するのかが見えにくくなります。

こうした見解は、オーストラリアやパートナー国が、集団的安全や繁栄を強化するために協働するのを軽視します。

重要な点ですが、これでは可能な選択肢として、受け身の姿勢が提示されることになります。他国が私たちに代わって選択してくれる間、ただ待機して、最良の結果を願っていれば良いことになります。

これでは、私たちが暮らしたいと願う地域を作る上での、オーストラリアや東南アジア隣国の力が損なわれます。

アルバニージー政権がASEANやその加盟国への関与を、最優先事項のひとつに定めているのはこのためです。政権発足から一年が経つ前に、私は外相として、ミャンマー以外のすべての東南アジア諸国を訪れることになります。

こうした外交努力は、経済的関与の拡大により補完されなくてはなりません。

政府が今年発表する、2040年に向けた東南アジア経済戦略は、地域のパートナー国との網の目のような自由貿易協定と合わせ、こうした関与の中心にあります。

本戦略は互恵的であるだけでなく、平和の重要な誘因となる共通の価値を生み出します。

人口が6億7500万人を超える多様な地域において、私たちはいかに影響力を最大にするかに照準を定める必要があります。

こうした効果を高め、増大していくために、パートナー国と協力を行う必要があります。

共に機会を創出すると共に、安全保障分野以外にも育むべき利益がある点を地域に示さなくてはなりません。

こうした確信を、東南アジアの成功は私たちの成功であるとの認識と共に築く必要があります。

私たちはこのような理由から、インド太平洋経済枠組み(IPEF)を含め、米国やインド太平洋地域内外の他のパートナー国による、東南アジアへの経済的関与の拡大を奨励します。

私たちが望む地域の均衡について、この点における米国の重要性を明確にせずに物事を語ることは不可能です。

ここで現状について、いくつかの点を確認したいと思います。

ジョン・カーティン元首相による戦時中の米国への傾倒ほど、オーストラリアの歴史を転換させた出来事はありません。

米国は私たちの最も緊密な同盟国であり、戦略面での主たるパートナー国です。

米国と米国による地域の安全保障なしには、インド太平洋地域は、長きにわたる継続的な安定と繁栄の時代を謳歌できなかったでしょう。

この地域全体が米国による関与と、米国による地域の戦略的均衡への貢献から恩恵を得ています。

米国は度々、必要不可欠な大国として語られてきました。今現在もそうです。しかし、その性質は変化しています。

すべての国が平和と繁栄のために主体性を発揮し、戦略的均衡を追求する中、米国は多極的地域の均衡を図る上で中心的存在となっています。

米国の欠点を満足げに批判する人々の多くは、米国が役割を果たすのを止めた時、世界がはるかに納得のいかないものになる点に気づくでしょう。

そうは言っても、私たちはただ米国にすべてを任せているわけにはいきません。

地域のすべての国は、地域の均衡を維持し、数十年間にわたって平和や繁栄を支えてきた規範やルールを支持するために、外交や経済、他の形の関与を通じた働きかけを行わなくてはなりません。

そして、こうした均衡は軍事力に支えられなくてはなりません。

オーストラリアとAUKUSのパートナー国は先月、原子力潜水艦の取得に向けた工程表を発表しました。これは私たちの歴史で単独最大の防衛力への投資であり、私たちの国や国防軍、経済における一大転機を意味します。

私たちそれぞれが、外交を通じた平和の条件の維持に責任を負うように、私たちには攻撃を集団的に抑止する役割を担う責任があります。

もしいずれかの国が、他国の支配が可能であると計算すれば、地域は不安定になり戦争の危険は高まります。

2020国防戦略アップデートに強調されたように、オーストラリアは自国の安全保障に責任を負わなくてはなりません。つまり、抑止力の効果を実現させるための能力を高めなくてはなりません。

軍事力近代化の時代において、他国の軍隊が遠距離からより速く、より高い精密性と致死性で行動できる中、自らの安全に責任を持つとは、敵方となる可能性のある軍やインフラを、より離れた位置から危険に晒すことができるということです。

自らで強い防衛力を有し、自国の能力に資源を投じるパートナー国と行動を共にすることで、私たちは、攻撃を仕掛ける可能性のある相手についての算定を変えることができます。

戦争のメリットはリスクを上回ると、どの国も結論づけないよう、私たちは努めなくてはなりません。私たちの国や国民の安全・セキュリティを保証する上で、この点は抜本的に重要です。

私たちの外交・防衛政策は、いかに世界でオーストラリアをより強く、より影響力のある国にするかという点で、本質的で密接に絡み合う2つの柱といえます。

これらの政策は両方で、ある国が武力や武力行使の脅しによって、別の国に国益に反した行動を取るよう強要するのをより困難にします。

両方の政策により、地域の平和を維持する勢力の戦略的均衡に貢献します。

同輩であるリチャード・マールズ副首相兼国防大臣は、こう発言しています。「抑止力は協力に取って代わる選択肢ではない。これらは互いに補強し合うものである。」

さて、私たちのような民主主義国家において、AUKUSのような巨大な営みは精査されるべきです。

その経費が巨額であると、懸念する声が出ています。これに対しては二つの点をお答えします。

第一に、地域における軍事力増強の規模とスピードという観点から、私たち自身の信頼の置ける防衛力を確保し、地域の均衡に貢献を果たすには、かなりの財政的投資が必要だという点です。

第二に、こうした財政的投資の多くは、雇用や産業、主権的能力など、私たち自身に向けられている点です。AUKUSが潜水艦だけの存在でないのを、忘れてはなりません。この枠組みは人工知能や量子技術、サイバーなどを含む、能力の共同開発も扱っています。

工程表の予定時期に対する懸念も表明されています。この9年間、能力についての発表だけで何も実現されず、多くの時間が無駄になったのは事実です。しかし、時間を戻すことはできません。私たちにできるのは、必要な能力を現実的なペースで、最小限の移行リスクと共に、実現させていく最良の策に取り組むことだけです。

この工程表が、バージニア級潜水艦の取得やオーストラリア製の建造だけでなく、コリンズ級の就役期間の延長を含んでいるのは、こうした理由からです。

また、核不拡散について危惧する声も出ています。

労働党には、核不拡散・核軍縮に向けた現実的な国際的努力を強く推進し、核兵器不拡散条約(NPT)を批准してきた誇るべき歴史があります。条約の義務については、これからも引き続き最も高い厳格な基準で、これを遵守していきます。

AUKUSのパートナー国はラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約)を含め、国際法におけるオーストラリアのコミットメントを理解・認識しています。

海軍原子力推進は、ラロトンガ条約における義務に沿っています。

米国は、オーストラリアを訪問する巡回配備用の原子力推進潜水艦は、従来型の武装であると発表しています。

オーストラリアはバンコク条約(東南アジア非核兵器地帯条約)の締約国ではありませんが、今後も本条約の基本原則に沿う形で行動していきます。

私たちはこれまでも、これからも国際原子力機関(IAEA)や地域のパートナー国に定期的に、かつ透明性を持って関与していきます。

またパートナー国には、意欲的に関与してくれた点、及び私たちが行った報告に対する感謝の意を公に表明してくれた点に、お礼を言いたいと思います。

中でもここで、インドネシアの発言をお伝えしたいと思います。「地域における平和と安定の維持は、すべての国の責任である。あらゆる国がこうした努力に加わることが重要である。」−これこそまさに、私たちが実行していることです。

オーストラリアは非常に多くの面で幸運です。とりわけカーティン元首相やエバット元外相、ウィットラム元首相といった、偉大な政治家たちの先見の明から多くが得られています。

彼らは世界において、私たちの国益を増進する道筋を示してくれました。彼らの同盟やパートナーシップ、ルールと地域に関する功績を時代に即した内容にすることで、この道筋は今日も続きます。

この道筋は、後に続く世代にとってためになる洞察と合わせて、今日の状況に直面する中、私たちを巧みに、またこれまで通りに導いてくれます。

最後に、世界中の多くの方々によくお伝えしている点に言及して、本日のお話を終えようと思います。なぜなら核心に触れる内容であるからです。

今日の状況は、1914年や1930年代、1962年とよく比較されます。

こうした比較は警告にはなるでしょうが、それ以上ではありません。

というのも、私たちは歴史に囚われるべき存在ではないからです。現在をどうするのかを決定するのは、私たち自身です。

私たちが国力に傾注するのは、地域の競争から身を守るためだけではありません。国益や共通する利益を増進すべく国力を形成すると共に、これに影響を及ぼすためです。

私たちは抑止力を生み出し、AUKUSのパートナーシップを含め、将来の軍事的能力に主要な投資を行うことで、この点を実行しています。

国内経済の強靭性を生み出し、気候変動やエネルギー安全保障に取り組むと共に、サプライチェーンの強靭化を図り、国内での製造を増やし、人々の技能を高めることで、この点を実行しています。

外交力に精力を注ぎ、オーストラリアの最も緊密なパートナーシップを再活性化すると共に、国益を増進し価値観を高めることで、この点を実行しています。

世界を私たちのためになるよう作り、より良いものにしていく上で、私たちは国力のあらゆる要素を活用していく決意をしています。

 

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英語の原文はこちらをご覧ください。