Australian Embassy Tokyo
在日オーストラリア大使館

スコット・モリソン首相 アジアリンク・ブルームバーグ講演

2019年06月26日

 

シドニー、ニュー・サウス・ウェールズ州

 

今週末G20大阪サミットに出席する前に、本日皆様の前で講演する機会を下さったアジアリンクとブルームバーグに感謝申し上げます。

本日はオーストラリアの国益に見合う形で、開かれた共生的で、繁栄したインド太平洋地域を育成させるための私たちの計画についてご説明したいと思います。

わが国の価値観に見合う形で、オーストラリア政府によるインド太平洋地域への関与を導くような原則を提示したいと思います。

インド太平洋とは、私たちが暮らす地域です。

私たちが最も強い影響力を持つと共に、最も有意義な効果や貢献を生み出せる地域です。

今後も、わが国の繁栄や安全、運命を形作っていく地域です。

また、私たちの平和が脅かされた時代、とりわけ米国を始めとする同盟国と共に、国民が大きな犠牲を払った地域でもあります。

インド太平洋地域はこの10年間、世界の成長の3分の2を担ってきました。

ここには、世界人口の半分以上が集まっています。

わが国の往復貿易で見ると、4分の3以上がこの地域を相手としています。

ここには、私たちが特別の関係や義務を持つ家族のような太平洋諸島の国々、緊密な関係にある近隣諸国、主要な貿易相手国、同盟国、世界で最も早い成長を遂げている国々などが含まれます。

これ以外の地域に存在したいと、オーストラリアが思うはずがありません。

欧州からの入植当初、オーストラリアにとって地理的条件は重荷のように思われていました。しかし今日では、これが非常に有難いことであったと認識しています。

私たちの政策において、あまり語られてはいませんが、わが国は自らの影響力を過小評価しているわけではありません。最も効果の高い分野に狙いを定めて、貢献を果たそうとする場合はなおさらです。

この28年間、わが国の経済は他のどの先進国よりも早い成長を遂げています。

オーストラリアはこの期間、先進国として、連続でプラス成長を実現させてきた唯一の存在です。

また全ての主要格付け機関から、政府債務格付けでトリプルAを付与されている、世界に10か国しかない国のひとつです。

わが国には1万もの外国企業が進出しており、対豪投資の額は3.7兆豪ドルに及びます。

また、留学生の受け入れ数で世界第3位であり、海外観光客の数では第7位となっています。

さらに、東アジアにおける資源やエネルギー、食料の安全保障を支える上で、重要な役割を果たしています。

オーストラリアは年金資産残高において世界第4位の市場であり、投資信託の残高において世界第6位です。

こうした一方で、民主主義や法の支配において中心的な存在です。

オーストラリアは信頼のおける、積極的な米国の同盟国であり、私たちの地域を守るのを手助けするべく、安全保障協力を深めています。

日本との戦後の貿易関係では、1957年に日豪通商協定が締結され、日本はほんのわずか10年ほど前まで、わが国の最大貿易相手国でした。この関係は今では、かつてないほど広範かつ深いものとなっています。安倍首相は今週、オーストラリアの偉大な友人、地域において最も尊敬を集める政治家のひとりとして、G20の議長を務めます。

中国との間には、包括的な戦略パートナーシップや自由貿易協定が存在しており、奥行きや深みを持った関係が、人的交流により支えられています。このことは、わが国に120万もの中国系の人々が暮らすと共に、140万人がオーストラリアを訪れ、20.5万人の中国人学生が留学している点からも明らかです。

インドに関しては、その経済的、戦略的重要性が高まっていることは、インド洋を越えて広く認識されつつあります。オーストラリアにとっては、共有する価値観や展望を土台とした新たな機会が創出されています。インドは今や単独で、オーストラリアに定住する移民の最大出身国となっています。

ASEANについてはわが国は発足以来、特別の関係を築いてきました。わが国はこうした関係を通じ、域内の成長に向けた自らの規範やルールの形成を協力して行う、行動的で独立した途上国間の重要なネットワークにつながっています。こうした成長は、全てのインド太平洋諸国の国益に欠かせないものです。

オーストラリアは太平洋諸島国にとり、開発面で最大のパートナーです。

このように、私たちはこの地域で未来を一緒に共有しています。多くの貢献を果たせる一方、多くを得ることができます。

インド太平洋は抜本的な変化を経てきた地域であり、現在もこうした変化は続いています。私たちは、こうした変化が作られるのを支えてきました。

戦後社会の発展と経済の繁栄は、主に日本により主導されました。

中国に対する国際社会の関与は、後に中国の経済発展という奇跡を生み出しました。

ASEANの台頭は、加盟国の繁栄につながる地域の安定を支えてきました。

域内の貿易は急激に伸び、地域の軍事力が増強されたため、場所によっては否応なく緊張が高まっています。

自由貿易や新技術、イノベーションは、経済の自由化をもたらしました。

気候、海洋、種、森林に対する新たな環境面での圧力や脅威に、国境は関係ありません。

現在この地域を形成している、こうした動きの錯綜や集結、強さにより、私たちは新たな出発点に立たされています。

ごく最近で最も大きな変化と呼べるのは明らかに、地域に最も大きな影響力を行使する米中関係の変遷です。

世界で最も重要な二国間関係といえる米中関係が、ぎくしゃくしています。

貿易においては、緊張が高まっています。

その副次的な被害は広がりを見せています。

世界の貿易体制は、真の圧力にさらされています。

世界成長の見通しは、後退しています。

さらなる米中関係悪化の影響は、これら2つの主要国家のみに止まりません。

米中関係における戦略的関与と戦略的競争のパランスは、変化を遂げました。

これは避けられなかったことです。

中国は国家の団結や安定のための戦略として、繁栄を追求するという意識的な決定により、世界で最大規模といえる経済的奇跡への道を歩み出しました。

中国は今や重要な国となり、巨大な軍事力を持つと共に、世界に影響を与える存在です。また購買力平価において、世界最大の経済を有しています。

こうした成功は、米国やより広い国際社会による積極的な戦略的関与があってこそ、可能になったのを認めることは大切です。

まずは熱心な二国間交流、次に2001年の中国世界貿易機関(WTO)加盟時における、世界のルールを基盤とした貿易制度参加への支援により、中国は加盟国154か国の市場へのアクセスを大きく改善できました。

このためには、急速な経済拡大を支えた中国自身による改革も必要でした。

中国は現在、50か国以上にとり最大の貿易相手国となっています。

中国の対外貿易額は1980年、400億ドルに届いていませんでしたが、2015年までに100倍となり、4兆ドルに達しました。

中国は、保有する米ドルの外貨準備高において世界一の存在です。

中国経済の台頭は、ゼロサムゲームではありませんでした。これは特にオーストラリアの例に当てはまりますが、米国の場合も同様です。

オーストラリアが絶えず、また今後も、中国の経済成長を歓迎するのはこのためです。

しかしその前提は変わりました。ルールを基盤とした貿易制度は、現在のままだと、中国の経済構造や政策慣行に対処できないと米国が信じているのは、もはや明らかです。

こうした懸念の多くは、当然と言えます。

技術移転の強要は、公平さを欠いています。

知的財産の窃盗は、正当化できるものではありません。

産業補助金は、過剰な生産を促します。

頭角を示した中国は、もはや成熟経済の入り口に到達しています。

中国のかなりの地域が、経済の主要中心地が享受しているほどの繁栄の域に達していないのは確かです。しかし同時に、経済的に最も成功している省の中にはオーストラリアを始め、多くの先進国より規模の大きいものがあり、その大半は経済の高度化において、海外の競争相手に匹敵するか、時にこうした相手を上回っているのも事実です。にもかかわらず、競争相手である国々は、貿易であれ、環境規制あるいは他の条件であれ、他の先進国には与えられていない特権を相手に競争しなくてはなりません。

現在の貿易制度は、こうした問題を解決できないのは勿論のこと、認めることさえできていません。

ルールを基盤とした制度が、大きな新興国経済の台頭や、貿易および新技術の形態の変化といった新しい課題に適切に対応したいのであれば、すぐにもこれを是正する必要があります。

私たちの繁栄、インド太平洋地域のパートナーの繁栄は、開かれた世界経済やルールを基盤とした貿易体制の維持に大きくかかっています。

また、米国と中国の前向きで生産的、協力的な関係にかかってくるでしょう。

このためには、こうした大国は、自国の利益に捕らわれた狭量な見方を拒否するという、特別の責任を行使する必要があります。

こうした指導力が求められた、もしくは示されたのは、今回が初めてではありません。

ジョージ・ケナンは1951年「米国の外交(American Diplomacy)」という著書の中で、こう書いています。「ここ自国におけるわれわれの目的や営みが妥当で、他国の人々に対する傲慢さや敵意、誤った優越感に染まっていなければ、国益の追求は必ずより良い世界の実現に貢献する。」

この文章が世に出たのは、米国が新しい世界秩序の構築に励んでいた時でした。第二次世界大戦で4千5百万人の民間人を含む、6千万人が殺害されるといった狂気に対する砦として、制度や共通のルールを通じた繁栄の確保を希求していた時代です。

一説には、この推計には2千万人以下の中国人、41万9千人の米国人、4万人近くのオーストラリア人が含まれると言われています。

こうした新たな世界秩序は、大きな力には大きな責任が伴う点を理解していた米国を中心に、勇敢に勝ち取った平和によりもたらされました。

こうした新秩序の原則には、これを作った人々の価値観や願いが反映されました。

これにはまた、新興経済国や経済が回復した国が不満を高めるきっかけとなった、戦前の体制や考え方の失敗に対する教訓が生かされました。こうした失敗が、最も邪悪な国家主義イデオロギーの台頭をもたらしたためです。

ノルマンディー上陸作戦「Dデイ」記念式典のため、最近ポーツマスで他国の首脳とお会いした際、私は当時の歴史にある意味で圧倒されました。

メルケル独首相の傍に座ったことで、当時からいかに状況が変わったのかを実感し、心を揺さぶられました。空襲を受けたダーウィンを訪れた安倍首相と現地でお会いした時も、そうでした。戦後の世界秩序は、真に優れた成果を生み出しています。こうした功績において、米国は大きな称賛に値します。

こうした制度の中心に位置していたのは、国の規模を問わない、個々の主権国家に対する敬意でした。また強制を伴わない公平さという、一連の共通したルールによる保証を通じ、各国が関与や参加を行えるかもしれないという願いでした。

他の国と同様、米国も完璧ではありません。しかしこれまでより大きな像を把握するために、自らの地平線の向こうを見ることができる点を実証してきました。

大国の責任は抑制と共に行使されるべきであり、より高い次元のルールや他の利益との兼ね合い、慈善の精神に自由に従属されるべきであるとの認識を、米国は示してきました。

こうした力は他国の独立や主権を支持し、自らの国益を超える形で保護を提供するものです。こうした行いは平和や安定の維持に欠かせず、ゆくゆくは自国の繁栄を支えるという認識がここにはあります。

密接につながった世界において、今日ほどこの点が当てはまることはありません。

新たな世界の大国として、中国もこれまでにない責任を有するようになっています。

したがって米中貿易の緊張が、大国としての特別の責任というより広い文脈の下、WTOに沿った、オーストラリアなどの他国の利益に悪影響を及ぼさない形で解決される点が、重要になります。

こうした緊張関係に至った問題の蓄積は、開かれた共生的な世界貿易体制を強化する形で、交渉により認識、対処、解決されなくてはなりません。

私たち全ての国と同様、この20年間、国富や国民の生活水準をかつてない形で引き上げた世界貿易の制度を現代化し支援することは、中国や米国にとって大きな利益であり、特別の責任でもあります。

私たちは二極化の流れを運命とみなす考え方を拒否し、米中二極の観点からのみこうした問題を捉える分析に抵抗することにより、こうした努力や成果を支援できます。

否応なくより競争的になった米中関係が、敵対的な性質を帯びるようでは、インド太平洋地域のどの国のためにもなりません。

オーストラリアだけでなく、地域のあらゆる国々が、この覇権争いの時代に適応せざるを得なくなっています。

日本やインド、ニュージーランド、ベトナム、シンガポール、インドネシア、パプアニューギニアなど全ての国々が同様に、この新しい力学の流れにおいて、自らの国益や歴史、地理、同盟関係、パートナーシップ、願望において均衡を図ろうとしています。

オーストラリアはここに暮らす他の国と同様、自分自身でいられる自由を求めているに過ぎません。自身の価値観に見合う形で、平和に国益を追求する一方、自らの歴史を十分理解し、未来への希望に対して率直、かつ正直でありたいと望んでいるのです。

こうした課題の共有は、大切な共通の土台を生み出します。そしてオーストラリアはこうした点において、今後も重要な役割を担っていきます。

私たちは動揺もしなければ、脅威を感じたり、運命論的になることもありません。

国際的環境には無論、困難が存在します。

リスクとしては、主要な国家関係のさらなる悪化や、これに伴う世界経済、地域の安定への付随的な影響が存在します。

また技術や支払い制度、金融サービス、他の分野などで、米中の経済システムを切り離そうとする圧力が存在します。

これらはしかし、克服できない障害ではありません。克服が可能と捉えることは、現代的な形での妥協を意味するわけではありません。それでは、論点のすり替えになってしまいます。

では、何が他の選択肢になるのでしょうか?

こうしたリスクは軽減可能であり、実際そうでなくてはなりません。そして私たちが行動を共にする時、その可能性はより高まります。

大国の覇権争いの後、私たちはただじっとして、運命を受動的に待つべきではありません。

それでは人間や国家、国際機関が持つ力を過小評価し、諦めることになります。

私たちには、追求できる具体的な手順があります。

私たちは、自らの役割を果たします。受け身の傍観者でいることはありません。

私たちの手法は、いくつかの主要原則に基づきます。

まずは強制力でなく、ルールを基盤とした貿易関係における、開かれた市場へのコミットメントです。

次に、強靭性や主権を育むような取り組みです。

また国際法や、強制力による脅迫、その行使を伴わない紛争の平和的解決に対する敬意も該当します。

強固かつ強靭な地域の枠組みにおける、協力や負担の共有に対するコミットメントもです。

こうした原則はすべて、競争を望むという、主権国家が持つ自然な本能と一致したものです。

競争による衝突というのは、避けられない事態ではありません。

私たちが実証しているように、志を同じくする国は、自身の運命を開くための措置を取ることができます。

私たちは今後も、インド太平洋地域内に緊密な関係のつながりを構築する上で、模範を示していきます。

私たちは近年、主要な二国間関係の確立に労力を費やしています。これは安全や繁栄を増進し、地域の影響力を育むと共に、域内の経済統合や協力を促し、平和的協力を導くためのルールや規範を推進するためです。

私たちは、経済への関与を強化しています。

わが国の防衛協力は、これまで以上に深まっています。

電子商取引やサイバーセキュリティ、インフラ開発、イノベーション技術、海上安全保障といった、変わりゆく世界の最前線にある分野において協力活動を主導しています。

また日本やインド、インドネシア、ベトナムなど、緊密なパートナー国とこれまで以上に協力を深めています。

日本との特別な戦略的関係は、深く共有された価値観や国益、信念を基盤としています。新年号令和のスタート間もなく、今週に開催されるG20での指導力が示すように、安倍首相は国際秩序を強化するためのビジョンを有しています。

オーストラリア政府は、インドとのパートナーシップ強化に努めています。この関係は価値観の共有や、両国の経済関係を新たな次元に高めるための計画、戦略的展望の合致に支えられています。

私たちは安全保障や経済、開発面で、東南アジアの主要なパートナーである点に力を入れています。

わが国によるインド太平洋地域のビジョンにおいて、ASEAN諸国は中心に位置しています。

私たちは地域をまとめ、貿易自由化への勢いを持続させてきた野心的な貿易分野のアジェンダを、引き続き推し進めました。

トニー・アボット元首相の下、私たちは中国、日本、韓国と主要な貿易協定を締結しました。

米国が環太平洋パートナーシップ(TPP)協定から離脱した時、私たちはマルコム・ターンブル元首相の下、成功への道を正しく邁進しました。本協定はWTOの発足後、最大の貿易協定であり、ミドルパワー外交を前向きに謳ったものです。

今ではアジア太平洋地域内外の国家で、TPP-11協定に対する関心が強まっています。

私たちは、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の本年締結を期待しています。この協定は16か国によるもので、世界GDPの約3分の1を占める地域を網羅しています。

インドを含んだ初の地域自由貿易協定であり、ASEAN10か国がその中核に位置しています。

RCEPにはオーストラリアの上位貿易相手15か国のうち10か国が含まれており、これらの国々はわが国の往復貿易の60パーセント強、モノ・サービス輸出の70パーセント強を占めます。

今年11月にバンコクで開かれる参加国首脳会合で協定に合意するために、北京での来月会合に、明確な権能を与えられた貿易担当大臣を派遣するよう、各国首脳に促します。

他にも、地域の関係に重しを与えるような優先的イニシアチブがあります。

ASEAN独自のインド太平洋構想の策定における、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領のビジョンと指導力を、オーストラリアは強く支持します。

インドネシアと最近締結した包括的経済連携協定(EPA)は、オーストラリア経済の未来を確保し、最大の隣国との重要な関係を強化する上での大きな一歩です。

地域の他のパートナー国との協働を続ける一方、私たちは巨大で、力強い友好国と直接に関わっていきます。

米国との関係は、これまでになく強固になっています。

これは確固とした互恵的な同盟関係であり、お互いに何かを証明し合う必要がないものです。

米国との同盟関係は、オーストラリアの安全保障の根幹に位置し、唯一無二のハードパワーの力や情報収集力を提供してくれます。

オーストラリアがより強力な地域の国として存在するのは、米国との同盟のおかげです。

米国が自身であまりに多くの負担を背負っている点に私たちは同意しており、米国との国際協力に力を注いでいます。

これからも、相応の協力を行っていくでしょう。

またWTOを含めた国際機関が、本来の目的にふさわしい組織であると共に、加盟国の利益を満たすよう改革を進める上で、米国や日本、インドネシア、中国、欧州連合と行動を共にしていきます。

世界秩序が力の行使でなく、合意したルールに基づいた時にこそ、安全や繁栄の度合いは高まります。

オーストラリア政府はまた、対中関係のさらなる強化に尽力しています。

中国との関係には、多くの長所があります。貿易関係は開花しており、往復貿易は2018年2150億豪ドルに到達するなど、両国に利益をもたらしています。

包括的な戦略パートナーシップを通じ、中国との協力は、経済面での課題をはるかに超えるものとなっています。

保健や教育、税制など、オーストラリアが世界屈指の専門性を提供できる分野に広くまたがる形で、両国は協力を行っています。

私たちはまた、専門タスクフォース(Taskforce Blaze)を通じ、麻薬密売への取り組みにおける協力を成功させています。

さらに多くのことが実現可能です。私たちはこのような考えから、今年の早い時期に、豪中関係全国財団(National Foundation for Australia-China Relations)を発足させました。

本財団はすでに協力関係にある分野や、地域社会で確立された豊かな交流の強化、および具体的な協力が可能な新分野の特定に取り組みます。

本日は本財団のワーウィック・スミス初代会長がお見えになっており、彼の指導力に感謝したいと思います。両国の政治の違いが、私たちの関与の側面に影響を与えるのを明確に認識する一方、豪中関係は、意見が異なる分野によって支配されるべきではないと、私たちは強く考えます。

中国との関係をめぐる私たちの決定は、純粋に国益に基づくもので、これは中国もオーストラリアに対して同様でしょう。こうした決定は、時に困難を伴います。

これらはしかし常に、利益が一致する分野での協力の余地を大幅に残すと共に、中国の経済的成功の重要性を認識したものとなっています。

こうした成功は、中国とオーストラリアの両方に良いことです。

マッキンゼーの推定によれば、世界の他地域における消費の2.6パーセントは、中国からの輸入が占めており、この数字は2000年には0.8パーセントに過ぎませんでした。

中国からの輸入品は、今や世界の他地域において、総生産高全体の2.0パーセントを占めています。この数字は、2000年には0.4パーセントでした。

私たちは、中国の投資を歓迎します。

これまでの数十年間も、そうしてきました。

中国による対豪投資の累計額は2018年、10年前と比べて8倍以上になりました。中国は対豪投資額において、米国や日本、英国、オランダ等に次ぎ世界第9位となっています。

オーストラリアは域内で、海外からの投資に最も自由な姿勢を取る国です。中国がわが国に投資するのと同じように、オーストラリア国民が中国に投資することは不可能です。この点はおそらく変わるでしょうが、わが国の政策は互恵性でなく、国益の観点から策定されています。

私たちは特に戦略的国家安全保障との兼ね合いから、こうした投資に対して国家主権を保持しますが、こうした課題が解決済みの場合、これらの資本への経済的アクセスを断つことは、自らの経済的利益に害を及ぼす結果にしかなりません。

私たちが、投資審査において無差別的な待遇を保証するのはこのためです。

中国を含め、あらゆる国は海外投資を審査しています。

地域におけるインフラのニーズは非常に大きく、「一帯一路」構想が地域へのインフラ投資や地域の開発に果たし得る貢献を、オーストラリアは歓迎します。

私たちは透明性や債務の持続性を含め、純粋な市場のニーズや国際的水準を満たした、ビジネス上のメリットがある地域への投資を支援します。

最後に、私たちのインド太平洋地域関与における柱のひとつが、太平洋ステップアップ戦略です。

私たちは太平洋諸島地域を、本来あるべき姿へと戻しました。オーストラリアの戦略的見通しや外交政策、人的交流における中心的存在としてです。

私たちのVuvale(家族)、wantok(大切な仲間)、Whanau(大家族)である太平洋諸島ファミリーの一員として、私たちには特別の責任があります。

この戦略は、インド太平洋地域への関与における基本的な要素となります。戦略面で安全であり、経済面で安定すると共に、政治面で主権を持った南太平洋は不可欠です。

例えば、太平洋のためのオーストラリア・インフラ融資ファシリティや労働市場プログラム、海底ケーブル敷設計画などの措置を通じて、オーストラリアは大きな変化の実現が可能です。

地域の力強さと安定は私たちの安全を高め、経済の成長や人々の繁栄を可能にします。

本日は主に、私たちの地域関係や関与政策における経済の側面に焦点を当てました。これらの課題を戦略や安全保障、防衛面での国益という観点から、また環境や開発協力の観点から、別の機会に論じたいと思います。

最近の選挙では、国民の将来を保証するための経済の確立を優先させる形で、そうした取り組みを行いました。

本日は以下の見解と共に、この講演を締めくくりたいと思います。

世界経済には、暗雲が立ち込めています。

世界で最も重要な二大国の貿易関係は、大きな緊張にさらされています。

しかし、こうした関係のさらなる悪化は、避けられないものではありません。

私たちには皆、とりわけインド太平洋地域において、協力のパターンを深めていく責任があります。

オーストラリアには、自らの役割を果たす用意があります。

私たちは自由貿易や国際的関与、ルールに合意、遵守し、コミットメントを履行していく国際的なシステムを支持します。

これこそが、安定や繁栄を享受する開かれたインド太平洋地域を実現させる、最も確かな道といえます。