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在日オーストラリア大使館

先住民への返還

先住民への返還

オーストラリア政府は、アボリジナルピープルおよびトレス海峡島嶼民の遺骨と祭礼具について、その返還を支援しています。これらの返還は、癒しと和解に資するものです。

その一環で、国外機関の収蔵品となっていたり、海外の個人が所蔵していたりする遺骨について、自発的かつ無条件の返還を促進しています。また、オーストラリアの主要博物館8施設が保管している遺骨・祭礼具が、伝統的な管理者へと無事に返還されるように、支援しています。こうした取り組みを通じて、癒しと和解に貢献しています。

200年以上にわたり、遺骨や祭礼具は元々の地域を離れ、オーストラリア国内外の博物館、大学、個人コレクションの中で保管されてきました。19世紀から20世紀にかけて、医療関係者、解剖学者、民族学者、人類学者、牧畜業者は、人間の生物学的差異の説明につながる「科学的」研究のために、遺骨を集めました。その一方で、貿易や売買の目的で持ち去られた遺骨や祭礼具もあり、これらは、人々の好奇心をそそるものとして、収蔵先で頻繁に陳列・展示されました。

これまで長きにわたり、返還には、先住民族の人々にとって最善の結果が実現されるよう、協力的なアプローチが必要であると認識されてきました。芸術局は、アボリジナルピープルおよびトレス海峡島嶼民のコミュニティ、他のオーストラリア政府機関、オーストラリアの博物館、州、準州・特別地域、地方自治体、研究者、外国政府、所蔵機関、個人所有者など、あらゆる関係者と協力しています。

 

 

国外からの返還

オーストラリア政府は30年以上にわたり、国外からの返還を支援してきました。これまでに、9か国から1600体以上の遺骨がオーストラリアに返還されました。遺骨の由来がわかれば伝統的な管理者へと返還し、由来が特定できない場合には、それが可能になるまで国内の安全な場所で保管できるように、オーストラリア政府は国外からの遺骨返還の実現に向けて、尽力しています。

現在、米国、英国、ドイツ、オーストリア、ニュージーランドからの返還を進めています。また、オーストラリアは、フランスと遺骨返還について、合意しています。そして、他の国々とも、遺骨返還を呼びかけるために、緊密に協力しています。伝統的な管理者が見つかっている場合には、オーストラリア政府はこのコミュニティと緊密に協力して、遺骨返還、文化的慣習、関連資料の利用閲覧と管理に関して助言を行います。遺骨の最終的な慰霊方法に関する決定はすべて、伝統的な管理者が下します。

詳細については、 [email protected]まで、メールでお問い合わせください。

 

研究

オーストラリア政府は、遺骨や祭礼具を伝統的な管理者へと返還できるよう、それらの出どころとなったコミュニティを決定する上で、由来の調査が最初の一歩になることが多い点を認識しています。伝統的な管理者が判明している場合、その管理者から、遺骨・祭礼具のあらゆる研究データの閲覧、管理、公開に関する事項について、助言を受けることができます。また、こうした点のほかにも、遺骨や祭礼具の研究の広範なテーマに関して、助言を受けられる場合もあります。

出どころ調査には、芸術局、または、先住民遺骨返還プログラム博物館助成金のもとで資金助成対象となるオーストラリア国内博物館8施設が協力する場合があります。

 

研究の種類

遺骨・祭礼具を伝統的な管理者に返還できるよう、その由来特定のために非侵襲的な研究方法を用いることを、オーストラリア政府は支持しています。こうした出どころ調査の目的は、遺骨・祭礼具に関する情報を、可能な限り多く発見することです。例えば、遺骨・祭礼具が元々あった場所から移動した背景や、収蔵機関・個人所有者が保管するにいたった経緯を把握しようとします。出どころ調査によって、遺骨や祭礼具が持ち去られた背景について、コミュニティは理解を深められます。調査によって得られた情報をもとに、返還を受けるコミュニティは、参加すべき関係者、尊重すべき文化的な慣習やしきたりなどの問題について、意思決定を下せるかもしれません。

芸術局は、伝統的な管理者が情報提供を受けた上で、自由意志によって、事前に同意しない限り、出どころ調査の内容を第三者に提供しません。

  • この「自由意志によって」とは、強制、強要、または圧力を受けずに、自発的に同意する必要があることを意味します。
  • また、「事前に」とは、何らかの措置が講じられる前に同意が必要であることを意味します。
  • 「情報提供を受けた上で」とは、提案内容とその影響を全関係者が明確に理解していることを意味します。
  • 「同意」は、全当事者間の意思疎通プロセスを経た合意です。

遺骨について助言できる伝統的な管理者がいない場合、自由意志による、情報提供を受けた上での事前の同意が得られていないため、情報の公開・公表は一切行ってはならないという立場を、芸術局は取っています。

 

保管資料調査

政府は、遺骨と祭礼具の由来を把握するための保管資料調査を支援しています。これらの由来を特定する際には、適切な伝統的管理者を見つけられるように、利用可能な資料をすべて確認します。この過程には、新規収蔵に伴う記録、手紙・書簡、過去から現代までの学術出版物やメディア、展示記録、図面、写真、その他関連文献情報の確認が含まれるかもしれません。特定された伝統的管理者には、保管資料調査の結果が提供されます。その後、伝統的管理者は、遺骨・祭礼具に関連する情報の閲覧と管理についてなど、研究の諸問題について、さらなる助言を提供できます。

 

協議

出どころ調査の過程で、芸術局は、情報を明確化するために、さまざまな利害関係者と協議することがあります。芸術局は、特定の場所に依拠した情報や現地コミュニティの知見を得られるように、当該地域を代表するアボリジナル団体・トレス海峡島嶼民団体や、地元住民、地元の研究者と協力することがあります。州・準州・特別地域の機関に相談して、出どころ調査のサポートを得て、協議先として適切な伝統的管理者を特定できるように助言を受けることもできます。博物館助成制度下で助成を受けた、国内の博物館も、収蔵している遺骨・祭礼具の返還を進めるために、同様に助言を行う場合があります。博物館助成制度下で助成を受けた博物館も、地域の先住民団体と協力する際には、その協議プロセスを支えるために協力しています。

本アプローチは、アボリジナルピープルとトレス海峡島嶼民のコミュニティが返還プロセスの全段階に密接に関与し、これら先住民コミュニティの権利と習慣が常に尊重されることを確実化できるように努める、オーストラリア政府の「先住民への返還政策」と合致しています。

 

法医人類学・骨学

遺骨の出どころ特定を支援するために、法医人類学者や骨科学者に依頼して、遺骨の非侵襲的分析を行うことができます。法医学分析によって、個々の骨格要素、病理、骨折、損傷を詳細に理解でき、推定年齢や性別などの詳細も判明するかもしれません。遺骨の本人をオーストラリア国内外で保存されている関連記録資料に紐づける上で、当該個人についての正確な情報が役立ちます。その結果、遺骨の出どころの正確性を高められます。

 

紫外線光

紫外線光を用いた分析は、遺骨または祭礼具の出どころ情報を明らかにしうる、非侵襲的な研究方法です。過去にあったように、遺骨と祭礼具に関する情報がそれら自体、または、付随する票やラベルに記載されている可能性があります。時間の経過とともに、そのような書き込みは(一様またはバラバラに)色あせる場合があります。また、意図的に消された可能性もあるでしょう。紫外線分析を使用すると、元々の文字を表示したり、重要な印を識別したり、場合によっては、自然光の下ではまったく見えない文字を明らかにしたりすることがあります。紫外線分析の結果は、資料調査と併せて活用されます。

 

頭蓋計測

頭蓋計測分析は、遺骨の頭蓋骨を複数の角度から測定し、その測定値を既存データセットと比較して、遺骨の個人の民族的系統を特定する非侵襲的な研究方法です。頭蓋計測における比較分析への依存とその方法論を考慮すると、返還を目的とした遺骨の出どころ特定のために、頭蓋計測分析を活用することには問題があります。先住民への返還諮問委員会(ACIR)は、「頭蓋計測の限界を踏まえ、頭蓋計測による分析・研究を委託しない」という政府の立場を支持しています。また、同手法が社会的・文化的なつながりを考慮しないと認識しています。頭蓋計測分析のみにもとづいてオーストラリア由来だとされる遺骨について、政府がその返還を進めることはありません。

 

侵襲的調査

侵襲的調査法は、多くの場合、遺骨や祭礼具の一部を破壊します。「先住民への返還政策」は、歯のサンプリングやDNA分析など、遺骨や祭礼具を対象とした侵襲的調査を実施すべきではないと述べています。このため、芸術局は遺骨の侵襲的調査を支持していません。

伝統的管理者が判明している場合には、遺骨・祭礼具のどの部位であっても、それを破壊しうるかは、その伝統的管理者が文化的な決定権限をもって決める問題です。したがって、あらゆる形態の侵襲的調査は、この伝統的管理者が承認・手配することになります。

 

DNA分析

遺伝子検査には、一般的な用途が2種類あります。DNA分析は主に、存命の人や最近亡くなった人から現代のDNAサンプルを採取して、検査を行います。これに対しaDNA(古代DNA)は、より昔の人の遺伝子を分析します。DNA分析とaDNA分析は、先人間、また、先人と現代のコミュニティ構成員との間の関係性を特定する上で、有益でありえます。ただし、この分析の結果の質は、比較対象の参照標本の質に左右されます。また、現時点において、オーストラリア全土を網羅する参照標本は存在しません。収蔵機関や個人所有者のもとで保管されている遺骨の返還先特定作業において、遺伝子検査を適用するとどのような影響が生じるか、その全体像を理解するための取り組みは、あまり行われてきませんでした。aDNA分析の試料を得るプロセスは、侵襲的な検査を必要とします。伝統的な管理者に保管権がすでに移管されている場合、本手法の実施が研究として適切かの判断は、伝統的な管理者が下します。

 

同位体分析

同位体分析では、遺骨に付着しているか、骨歯の内側に入った土の中の放射性粒子、鉱物、化学物質の分析を行います。採取した試料は、ある種の同位体特性について分析されます。そして、特定地域でよく見られる食べ物、または、特定の場所の同位体特性と比較されます。この手法は有益かもしれませんが、現時点では、比較対象となる試料が少なすぎる場合がよくあります。この方法で遺骨の出どころを特定するためには、遺骨に付着した土壌、または、遺骨自体と、特定場所の土壌との比較を研究者は行わなければなりません。これには、比較のために何千もの試料が必要です。したがって、同位体分析が最も有効なのは、他の情報によって、出どころとなった可能性がある地域が、すでに絞り込まれている場合です。同位体分析の試料を得るためには、侵襲的検査が必要となる場合がしばしばあります。伝統的な管理者に保管権がすでに移管されている場合、本手法の実施が研究として適切かの判断は、伝統的な管理者が下します。

 

侵襲的な検査に関するコミュニティへのアドバイス

遺骨・祭礼具の管理権がコミュニティに戻された後、伝統的な管理者は、独立した立場の研究者と直接、独自の調査を進めることができます。伝統的な管理者が科学的検査の利用を考えている場合、プロジェクト参加に同意する前に、発生しうる問題すべてに関して検討する必要があります。

検討すべき問題には、生成されたデータの保持・管理を誰が行うか、そのデータの利用および統制、また、研究結果公表や他研究プロジェクトのために情報が将来的にどう使用されるか、といった点が含まれるかもしれません。コミュニティは、自由意志による、情報提供を受けた上での事前の同意の原則が、研究プロジェクトの全段階で必ず適用されるようにすべきです。

遺骨に対して科学的検査を行う際の懸念事項の一部について、概要をInformation for communities scientific testing on Indigenous ancestral remainsにまとめました。

 

その他の参考情報

 

国立慰霊施設

2022年1月5日、オーストラリア政府は、キャンベラ市ングラ地区(新設予定の国立オーストラリア先住民文化地区)内に、国立の慰霊施設を設立すると発表しました。国立の慰霊施設には、オーストラリア政府によって国外からの返還が進められ、国内への返還が実現した遺骨のうち、どの先住民コミュニティに由来するか判明しなかったものが納骨・安置されます。

この地区には、文化知識センターと、このプロジェクトの開発を主導しているオーストラリア先住民研究所(AIATSIS)の新拠点も置かれる予定です。

プロジェクト詳細については、オーストラリア先住民研究所のホームページ(Ngurra: The National Aboriginal and Torres Strait Islander Cultural Precinct | AIATSIS)で、ご確認ください。

 

先住民への返還諮問委員会の声明

先住民への返還諮問委員会(以下、「ACIR」)は、オーストラリア政府がキャンベラ市にアボリジナルピープルとトレス海峡島嶼民の文化地区「ングラ」を建設すると発表したことを歓迎いたします。

ACIRは、返還された遺骨のために長らく要望されてきた国立慰霊施設を含む、ングラの開発を歓迎します。国立慰霊施設は、由来についての情報が限定的な遺骨と付随する文化財が国外から返還された後、それらの長期的な慰霊・保管に大きく貢献します。オーストラリア国民に自国の隠された歴史について知識を広める上で、国立慰霊施設は大きな貢献を果たすことになるでしょう。

国立慰霊施設は30年以上にわたり、現ACIRとその様々な前身にとって、長期的な目標でした。数多くのオーストラリア先住民が、国立慰霊施設の創設に向けて、働きかけを行ってきました。2013年から2014年にかけて何度も協議を行った後、ACIRは「2014年国立慰霊施設協議報告書」を作成しました。その重要点として、国立慰霊施設をキャンベラに設立することが提唱されました。

オーストラリア政府は、ングラ先住民文化地区内に国立慰霊施設を設立することを誓っており、ACIRはこれを、将来にわたり遺骨を弔い、尊重するものとして、支持しています。

先住民への返還諮問委員会(ACIR)共同委員長 フィル・ゴードンおよびクリッシー・グラント

 

国立慰霊施設の設立にむけた道のり

2019年6月、オーストラリア政府は、最初の一歩として、プロジェクト定義のための事前調査・協議を行えるようオーストラリア先住民研究所に500万ドルを拠出しました。

2019年4月、特別地域両院合同常任委員会が「Telling Australia's Story—and why it's important: Report on the inquiry into Canberra's national institutions」と題した報告書を提出しました。報告書の13番目の提言では、豪州政府がオーストラリア先住民研究所を移転させ、同国先住民の歴史・文化・伝統に焦点を当てた包括的な全国規模の機関として、同研究所の役割と施設を拡大するように提案しています。国外から返還された先住民遺骨のうち、先住民故地に直ちに戻せないものを納骨・安置する国立慰霊施設も、その一部として構想されています。

2018年11月、オーストラリア先住民憲法承認に関する合同特別委員会が最終報告書を発表しました。提言の4番目では、オーストラリア先住民遺骨のための国立慰霊施設を、キャンベラ市に設立するよう検討することが推奨されています。この施設は、記憶、癒し、内省のための場所を兼ねています。

2014年、同委員会は「2014年国立慰霊施設協議報告書」をオーストラリア政府に提出し、国外から返還された遺骨のうち、本人のコミュニティへの返還がかなわないものについて、長期的な安置・保管をどうするかについての決定を通知しました。同報告書では、先住民遺骨のための国立慰霊施設をキャンベラ市に設立することが提案されています。

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